とある村の子どもの話

 地面から大きな音が聞こえたあの日から、

 大人は、ずっと怒っているみたいだった。


 外に出ちゃだめ。

 他の子と遊ぶのもだめ。


 家の中でも、お母さんはずっとしかめ面で、いくら笑わせようとしても、悲しい顔をしていた。


 夜になると、大人たちは松明を持って歩くようになった。

 昼でも、前の村じゃないみたいだった。


 それから、何回か寝たあと。


 お人形さんみたいな人と、

 よくわからない茶色い人が、村に来た。


 村長さんや村の大人たちは、二人を囲んで、なにかお願いしているみたいだった。


 でも、お母さんは言った。


 近づいちゃだめ。


 だから、遠くから見ていただけ。


 次の日起きたら、

 みんな、笑っていた。


 なにがあったのかは、わからない。


 でも、お母さんが前みたいに笑っていて、それが、うれしかった。


 それから、村のそばに、

 木がなくなった場所ができた。


 いつまでたっても、

 あたらしい木が生えない。


 ちょっと、こわいけど。


 ふしぎな場所。

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平凡な世界の交差点 狸林始 @Ninsuke

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