幸せを持ってくる妖精

妖精は、満足していた。


ずっと昔、少女がいた。

少女は、姉を憎んでいた。

完璧な姉と比べられるのを心底悲しんでいた。

少女は、クリスマス、虹が原公園の中央、クリスマスツリーの下で泣きながら祈っていた。

「姉がいなくなりますように」

そう祈りながらも、そんなことを考えてはだめ、と自分を叱咤していた。

だが、その涙も、言葉も、少女の本音だった。

その瞬間、その涙から、心から、クリスマスツリーの妖精は生まれたのだった。

妖精は、手始めに、姉を交通事故に合わせた。

姉は…、三日後に亡くなった。

それを、しり、少女は喜ぶのでもなく、満足するでもなく、泣いた。

自分のせいだ、自分のせいだ、と泣き、自分を憎んだ。


妖精は、納得がいかなかった。

なぜ?望みのままにしてやったのに。

そうして、心残りがあるまま、妖精は一月を迎えた。

その時、妖精は気づいた。

一月になると、自分は、生きられない。

そこで、妖精は解決方法を見つけた。

憎しみを持つ人間の中に入り、その人間の中身を、人格を殺せばいい。

そうすれば、外見は、その人間のままで人格だけ妖精として生きられる。

妖精は、クリスマスツリーに祈っていた少女の体に入った。

しかし、入っても、限界は一年だ。

一年で妖精は、その体とおさらばしなければならない。

妖精は、クリスマスツリーの近くで、“憎しみ”の感情を持つものを探した。

そして、その者の中に入り―。

ということを繰り返した。


そうして、時は過ぎ―。


いつの間にか、こんな都市伝説ができていた。

クリスマスツリーに触れ、願いを唱えると、クリスマスツリーの妖精によって、

その願いがかなえられる、というもの。

もちろん、この伝説には続きがある。

そう、祈った者の中に、妖精が入り、祈った人の人格は消し、妖精が中に入り込む、というものだ。

入られてしまった人のことを、いつしか、妖精は宿主と呼ぶことにした。


妖精は、嬉しそうだった。

なぜならば。

今年は、人を幸せにすることができたからだ。

(夢の中だが)幸せにしている、白川 明菜。

(愛されてはいないが、それを知らず)ななと恋人になれたと喜ぶ、安藤タケル。

(宿主にされてしまったが)白川に復讐できた、早井 なな。


妖精は、ニマニマとしていた。

実をいうと、去年まで、妖精は思うように動けなかった。

なぜなら。

妖精は、ずっと前、クリスマスツリーに、白川を倒したい、と願う少女を宿主にし、その少女の中に入った。

偶然にも、今年の宿主、ななと同じ願いだが、妖精は、そういうことを気にはしない。

その少女の中に入った妖精は、白川と名乗る女を見て、一発で気に入った。

危機に陥った時の白川は、絶対面白い反応をしてくれるだろう。

そう思って、また、少女の願いもかなえるべく、始業式の日、妖精はナイフを鞄に仕込み、学校に向かった。

そして、クラスメイトを刺していった。

だが、その場に、白川はいなかった。

残念だったが、人を刺すことに快感を覚えた妖精は、ほかの人も刺そうと振り返り、ちょうどいいやつを見つけた。

呆然と突っ立ていた男の子。

逃げ惑う子供たちの中、ただ困惑しながら妖精を見つめてくる姿は、なかなかにそそられるものがあった。

だから、その男の子を刺すつもりで一歩踏み出した瞬間。

体の主導権を、妖精は失った。

手が勝手に動き、自分の体ー心臓ーを一突きしようとしてくる。

とっさに主導権を奪い戻し、おなかのほうに刺す方向を変えたが。

やはり、かなりの痛手を負ったようで、妖精は倒れこんだ。

そう、妖精にも弱点があったのだ。

宿主の体が、首を絞められる、心臓を刺される、などして死んでしまうと、妖精もなくなってしまうのだ。

妖精は、弱りながらも、宿主の体で回復を待った。

奇跡的に、宿主の体に四年間ほどとどまることができた妖精は、今年、やっとこさっとこ、宿主の体から出てきたのだ。


妖精は、こうなってしまったのを、宿主の人格が、少しだけ残っていたからだとにらんでいた。

どうして宿主が必死に反抗してきたのかは、わからないが。

宿主とあの男の子は、何か関係があったのだろうか。

まあ、今はもう宿主は意識不明の植物状態。

知ることは、できないだろう。

とりあえず、と。


妖精はななの体でにっこりと笑った。

今回は、三人も幸せにすることができた。

クリスマスツリーの上にある黄色い星が弱弱しく瞬く。

妖精としての存在は、一年の終わり、クリスマスツリーに戻る。

そして、クリスマスツリーの近くで宿主を探し、その体を乗っ取るのだ。

まあ、去年までのハプニングは特例だが。

妖精は、宿主にされたとは言えど、ななも幸せだろう、と笑った。

なんせ、タケルは嫌いだし、面倒くさいと思っていたではないか。

代わりに、妖精が付き合ってやるのだから、これ以上うれしいことはないだろう。

それに、復讐が達成できてうれしそうだったし。


さて。

妖精は、頭を揺らした。

もうすぐ、クリスマスが終わり、一月に入る。

そして、四月に。

妖精は、再度頭を揺らした。

この体で、今年、何人殺すことができるだろう。

今までの宿主で、殺した人の数は、大体、五人だった。

じゃあ、今年は十人が目標だろう。

ケイサツとかいう厄介な奴に、毎回止められそうになるから、かくれて宿主の家族、嫌いな人を殺そうとしても、やっぱり数が少なくなってしまうのが課題だ。

妖精は、笑う。

外見は、若い少女の姿で。

宿主は、妖精がその体から離れるのと同時で、死ぬ。

もしくは、意識が不明になる。

妖精は、笑う。

高らかに、甲高く。

隣のタケルが少し驚いた顔をする。

だが、微笑み、また前を向く。

妖精は笑う。

明るく、幼子のように。

ある病院で、(『白川』というプレートがかかった病室で)意識不明の女の子が、瞼をかすかに震わせる。

だが、ゆるゆると、また夢に落ちていく。

妖精は笑う。

歌うように、踊るように。

ななの体の芯は空っぽだ。

もう、いない。

だが、ななの嬉しさの余韻はまだ残っている。


妖精は笑みを浮かべる。

ふふふ

声は出さずに妖精は口を動かした。



次の宿主はきーみだ♪







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クリスマスツリーの妖精 ライフリー @raihuri-888

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