序幕
冬来たりなば
屋敷の広間は外の寒さとは対照的に暖炉の温かみで満ちていた。厚い毛皮の敷かれた床、その奥に置かれた毛皮張りのソファに髭面の男がどっしりと腰を下ろしている。
ウィルはその前に跪き、視線を伏せた。その男――師であり、父であり、彼が最も尊敬する存在が口を開く。
「ウィル。そろそろ、お前も大人にならねばならん」低く重い声が広間に落ちる。
「はい、分かっております」ウィルは頭を垂れたまま応えた。
張り詰めた空気の中、彼は一言一句を聞き逃すまいと耳を澄ませている。
「己を識り、森を識り、獲物を識る。儂がお前に教えられることは全て教えた。お前は目が良い。いずれ、儂を越えるモリビトとなる」男はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。 壁に掛けられた銀色の猟銃を取り外す。その金属の輝きは、暖炉の火を受けて冷たく光った。男はウィルの前に立ち、その猟銃を差し出した。
「お前がこれを持つに相応しい者であると証明せよ。冬来たりなば」
「春遠からじ」ウィルは一層深く頭を沈め、恭しく猟銃を受け取った。
その重みが掌から腕、そして胸の奥へと伝わってくる。
やがて男はウィルの横を通り抜けると、広間を後にした。扉が閉まり、残されたのはウィルひとり。暖炉の薪がぱちぱちと音を立て、火の粉が弾ける。その音を聞きながら、ウィルは膝の上に置いた猟銃を見つめ続けていた。
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