第7話 合流条件

世界が、同時に“問い”を投げかけてきた。


声ではない。

文字でもない。

ただ、意味だけが流れ込む。


――合流は、可能。

――ただし、条件あり。


キースは立ち止まった。

足元に道はある。

だが、その先は見えない。


【再統合条件:提示】

【代価:等価交換】


「……等価、ね」


キースの前に、三つの影が浮かぶ。

ミィ。

黒猫。

シャオ。


どれも、完全ではない。

少しずつ欠け、揺らいでいる。


「一つ、選べ」


世界は告げる。


――全員を戻すには、

――“探索者としての役割”を手放せ。


重い沈黙。


探索者であること。

歩く者であり、選ぶ者であり、

世界と向き合う立場。


それを失えば、

ただの旅人に戻る。


「……簡単には、いかないな」


キースは目を閉じる。


ミィの慎重さ。

黒猫の覚悟。

シャオの選択。


それらは、探索者の役割に支えられていた。

だが同時に――

探索者という役割は、彼らによって形作られてきた。


「役割が先じゃない」


キースは、はっきり言った。


「一緒に歩くから、探索者なんだ」


世界が、わずかに揺れる。


――条件、再計算。


新たな意味が流れ込む。


――代替案:可能。

――個別代価、選択可。


キースは、迷わなかった。


「俺が払う」


差し出すのは、力でも命でもない。


「俺が“導かない”ことを受け入れろ」


探索者として、前に立たない。

答えを示さない。

正しさを決めない。


ただ、並ぶ。


【代価:承認】

【探索者役割:限定化】


世界が、静かにほどける。


別々だった位相が、重なり始める。


ミィの姿が、はっきりする。

黒猫の輪郭が、戻る。

シャオの鳴き声が、意味を伴って届く。


「……おかえり」


キースの声に、三つの気配が重なる。


合流は、報酬ではない。

勝利でもない。


選択の結果だ。


探索者は、先頭に立たなくてもいい。

導かなくてもいい。


一緒に選び続けるなら――

それで、十分だ。


異界は、道を開く。


次に待つのは、

“出口”か、

それとも――

さらなる代価か。


キースと猫たちは、並んで歩き出す。

今度は、誰も前に出ない。


合流条件は、満たされた。

だが、旅はまだ終わらない。


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