第6話 それぞれの試練

世界は、三つに割れていた。


同じ異界のはずなのに、規則も感触も違う。

それぞれが“必要な重さ”を量られている。


#### ■ キース


足元は不安定で、進むたびに過去の情景が滲み出る。

港、街道、丘――失った“帰る理由”が、幻として現れる。


「……未練か」


幻は語りかけない。

ただ、戻れたはずの可能性を見せつける。


キースは剣を鞘に収め、歩いた。

振り払わない。否定もしない。


「選ばなかっただけだ」


幻は薄れ、道が現れる。

この世界は、後悔に立ち止まる者を通さない。


#### ■ ミィ


ミィの周囲は、静かな森だった。

だが、匂いが重なりすぎている。

危険も、安全も、区別がない。


進めば、罠。

止まれば、捕食者。


ミィは一度、座った。

鼻を鳴らし、耳を伏せる。


――走らない。


ゆっくり、確かめる。

自分の感覚を信じる。


森は、道を開いた。

速さではなく、慎重さを選んだ者だけが進める。


#### ■ 黒猫


黒猫の世界は、完全な暗闇だった。

光も、音も、匂いもない。


だが、空間の“圧”だけはある。

進めば重く、止まれば軽い。


黒猫は理解した。

ここでは、先読みが通じない。


一歩、進む。

重くなる。


さらに一歩。

それでも、止まらない。


暗闇は、徐々に薄れる。

覚悟を量る試練だった。


#### ■ シャオ


シャオの前には、声があった。

ミィの鳴き声。

キースの呼び声。

黒猫の気配。


だが、全部、違う方向から聞こえる。


「……っ」


シャオは震えた。

選べない。

全部、大切だ。


だが――

立ち止まると、足元が崩れ始める。


シャオは、目を閉じた。


一番近い声じゃない。

一番大きい声でもない。


“一番、今の自分に必要な声”。


それを選び、走った。


世界が、安定する。


---


同じ時刻、別々の場所で、

それぞれが“自分の選択”をした。


【分断状態:維持】

【再統合条件:未達】


まだ、合流はできない。

だが――


道は、すべて前を向いている。


離れても、

失っても、

選択は続く。


探索者とは、

一緒にいることではなく、

同じ方向を選び続けることだ。


その事実を、

キースと猫たちは、別々の世界で確かに掴み始めていた。

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