第10話 再び、旅へ
朝の空気は、静かだった。
港町から少し離れた丘の上で、キースは街を見下ろしていた。
あちこちに伸びる街道。
そのいくつかは、以前よりも人の往来が多い。
「……ちゃんと、動き始めてるな」
探索者と呼ばれる人々は、もう特別ではない。
彼らは指示を待たず、誰かの許可も求めず、
自分たちで考え、歩き、戻ってくる。
ミィは草の匂いを嗅ぎ、黒猫は遠くの山並みを眺め、シャオは朝露を踏んで小さく跳ねた。
【スキル〈まねきねこ〉が、反応していません】
それが、少しだけ嬉しい。
「俺がいなくても、いいってことだ」
案内人が、いつの間にか隣に立っていた。
「道は残った。
歩く者もいる」
キースは頷く。
「なら、俺の役目は終わりだ」
案内人は、深く頭を下げなかった。
別れの儀式も、感謝の言葉もない。
それでいい。
ミィが、ふいに街道とは逆の方向を向いた。
黒猫も同じ方角を見る。
シャオは一瞬迷ってから、二匹の後を追った。
「……そっちか」
キースは苦笑し、歩き出す。
探索者という概念は、この大陸に根づき始めた。
だが、それを守る必要はない。
役割は、人が引き継ぐ。
旅は、歩く者が続ける。
丘を越えると、道は再び名もない荒野になる。
地図にも載らない、まだ誰も知らない場所だ。
「やっぱり、こっちの方が落ち着くな」
ミィが鳴き、黒猫が尾を揺らし、シャオが胸を張る。
名を残さず、
称号も持たず、
ただ、世界を歩く。
それが、最底辺探索者の在り方だ。
別大陸を背に、キースと猫たちは進む。
次の土地へ。
次の世界へ。
探索者という言葉が生まれた場所から、
探索者は、静かに去っていく。
そして――
旅は、また始まる。
(第ー部・完)
最底辺探索者キース 第一部:別大陸編「まだ知らない世界」 塩塚 和人 @shiotsuka_kazuto123
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