第6話 猫たちが選ぶ道

その朝、キースは気づいた。


「……進路、決まってるな」


野営地を出るとき、ミィは迷いなく東へ向かった。

黒猫は周囲を確認しつつも反対しない。

シャオも当然のように後に続く。


地図を開くまでもない。

誰も相談していないのに、足並みは揃っていた。


「俺は……ついていく側か」


冗談めかして呟くと、ミィが一度だけ振り返って鳴く。

否定でも肯定でもない。ただの事実。


進む先には、古い石標があった。

文字は風化し、意味はほとんど残っていない。


【スキル〈まねきねこ〉が微弱に同調】


だが、今回はキースではなく――

猫たちの感覚が反応していた。


ミィは石標に前足を置き、動かない。

黒猫は周囲を一周し、シャオは耳を澄ませる。


「……呼ばれてる?」


キースの問いに、猫たちは答えない。

ただ、進む。


辿り着いたのは、裂け目の多い丘陵地帯だった。

歪みの痕跡が、点在している。


「ここ……」


キースは気づく。

ここは、世界がまだ“自分で治りきれていない場所”だ。


ミィが前に出る。

黒猫が左右を抑え、シャオが警戒の鳴き声を上げる。


【スキル〈まねきねこ〉:猫側主導】


キースは、何もしなかった。

剣も、スキルも使わない。


猫たちは、歪みの“流れ”を読み、地形を選び、

必要なだけ近づき、必要なだけ離れる。


それは、探索だった。

人の理屈ではなく、世界に近い感覚での。


やがて、歪みは自然に散っていく。

傷口に、無理な力は加えられていない。


【同調解除】


ミィが振り返り、鳴く。

――終わり。


「……完全に、主役取られたな」


キースは苦笑した。


「でも、それでいい」


探索者は、常に先頭に立つ必要はない。

ときには、選択を委ねる側に回るべきだ。


猫たちは、胸を張って歩き出す。

キースは、その後ろを歩く。


主導権は、移った。

だが、絆は変わらない。


別大陸で、探索者という役割は――

キース一人のものではなくなりつつあった。


道を選ぶのは、歩く者すべてだ。


その当たり前の事実を、

最底辺探索者は、今さらのように噛みしめていた。

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