第10話 旅は続く

朝日は、どこでも同じ色をしている。


世界の境界を背にして歩き続けた先、キースたちは小さな丘に立っていた。

振り返れば、特別なものは何も見えない。

だが、確かに“越えなかった場所”が、そこにあった。


「……結局、何も変わってないな」


キースは苦笑しながら呟く。


英雄になったわけでもない。

世界を救ったわけでもない。

戦争も、歪みも、問題は山ほど残っている。


それでも――


ミィは朝露に濡れた草を跳ね回り、黒猫は今日の進路を見極めるように遠くを眺め、シャオは少し眠そうにあくびをした。


「まあ、いいか」


キースは歩き出す。


「全部を終わらせるより、

 続けられる方が、俺たちらしい」


【スキル〈まねきねこ〉が、静かに反応しています】


もう、力は主張しない。

必要なときに、必要な分だけ、応えるだけだ。


街道の先から、声が聞こえた。


「すみません!

 探索者さんですか!」


振り返ると、困った顔をした旅人が手を振っている。

道に迷ったらしい。


キースは、少し考えてから笑った。


「探索者だよ。

 でも、答えは保証しない」


ミィが鳴き、黒猫が前に出る。

シャオは、誇らしげに胸を張った。


「行こうか」


誰かに管理されず、

誰かを管理せず。


選び続けるために、歩き続ける。


世界を巡る探索者とは、

偉業を成す者じゃない。


今日を選び、

明日へ向かう者のことだ。


空は広く、道は続く。

まだ知らない場所が、無数に待っている。


キースと猫たちは、並んで歩く。

その背中に、称号はない。


だが――

旅は、確かに続いていく。

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世界巡遊探索録 ――キースとまねきねこたち 塩塚 和人 @shiotsuka_kazuto123

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