第8話 戦火の大陸

大地は、焦げた色をしていた。


草原だったはずの場所は踏み荒らされ、折れた槍や盾が無言で転がっている。

遠くで煙が立ち上り、風に乗って鉄と血の匂いが流れてきた。


「……ここは」


キースが言葉を探す前に、答えは目の前にあった。

二つの軍勢が、にらみ合っている。


ここは戦火の大陸。

資源と領土を巡り、終わりの見えない戦争が続く地だ。


ミィは耳を伏せ、黒猫は地形を素早く見渡す。

シャオは怯えながらも、キースのそばを離れなかった。


「探索者か」


片方の陣営の兵士が声をかけてくる。


「傭兵なら歓迎する。

 報酬は出す」


キースは首を振った。


「俺は中立だ」


その言葉に、兵士は苦笑した。


「この大陸じゃ、一番難しい立場だな」


その夜、野営地の外れで、キースは気づいてしまった。

戦場にいるのは、人だけじゃない。


歪んだ魔力に生み出された、人工のモンスター。

兵器として使われ、制御を失い、村を襲っている。


「……これ以上、放っておけない」


【スキル〈まねきねこ〉が警戒反応を示しています】

【対象:人工歪曲体】


ミィが一歩前に出る。

黒猫も構え、シャオは震えながらも離れなかった。


「今回は……戦う」


キースの声は、迷いがなかった。


だが、招かない。

従えない。


ただ、止める。


キースは剣を抜き、猫たちと連携して動いた。

ミィが敵を引きつけ、黒猫が死角を突き、シャオが警告を鳴らす。


短く、激しい戦いだった。


人工モンスターは崩れ落ち、魔力は霧散する。

だが、その光景を、両陣営の兵士たちが見ていた。


「……あれは、兵器だぞ」


誰かが呟く。


「だからだ」


キースは剣を収める。


「人を守るための力が、人を壊すなら、止める」


報酬も、称賛もない。

むしろ、厄介者を見る視線が残った。


それでもいい。


「俺たちは、どちらにもつかない」


キースは猫たちを見下ろす。


「でも、守りたいものがある場所では、立ち止まる」


ミィが力強く鳴き、黒猫は前を向いた。

シャオは、少し誇らしげに胸を張る。


戦火の大陸を後にするころ、夜明けが近づいていた。

戦争は、終わらないだろう。


だが、今日一日は、確かに救われた。


世界を巡る探索者とは、

戦わない者ではない。


――戦う理由を、自分で選ぶ者のことだ。

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