第7話 空に浮かぶ学術都市

雲の上に、街があった。


巨大な円盤状の大地が空に浮かび、その上に白い塔や研究施設が整然と並んでいる。

魔力の流れが可視化され、空気そのものが知性を帯びているようだった。


「……すごいけど、落ち着かないな」


キースの呟きに、ミィが同意するように鳴く。

黒猫は周囲を警戒し、シャオは高度に足がすくんだのか、キースの肩にしがみついていた。


ここは**学術都市アエリオン**。

世界中の魔法とスキルを研究する者たちが集う場所だ。


「ようこそ。

 君が〈まねきねこ〉の保持者だね?」


白衣の研究者たちは、敵意なく微笑む。

だがその視線は、人ではなく“現象”を見る目だった。


「観測だけだ。危害は加えない」


その言葉が、一番信用ならなかった。


研究室に通されると、無数の魔法陣と記録装置が並んでいる。

猫たちは落ち着かず、ミィはキースの足元を離れない。


「スキルを少し、使ってもらえるかな」


キースは、首を振った。


「使わない」


研究者たちが、困惑したように顔を見合わせる。


「世界の安定に役立つデータだ。

 君一人の問題じゃない」


「だからこそ、使わない」


キースの声は、静かだった。


「力は、状況で変わる。

 切り取っても、意味はない」


黒猫が一歩前に出る。

ミィとシャオも並び、研究者たちを見返した。


【スキル〈まねきねこ〉が抑制状態で反応】


空気が張りつめる。

だが、何も起こらない。


沈黙の末、老研究者が息を吐いた。


「……君は、英雄には向かないな」


キースは、少し笑った。


「よく言われる」


都市を出るとき、雲が切れ、地上が見えた。

広く、遠く、まだ知らない世界。


「危なかったな」


キースの言葉に、シャオが小さく鳴く。

ミィは胸を張り、黒猫は前を向いた。


「力を見せないのも、選択だ」


空に浮かぶ学術都市は、背後で静かに遠ざかる。

キースと猫たちは、再び地に足をつけて歩き出した。


研究される存在ではなく、

選び続ける探索者として。

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