第10話 新たな冒険の始まり

朝の空気は、驚くほど澄んでいた。


草原の向こう、ゆるやかな丘を越えれば、また知らない土地が広がっている。

キースは伸びをし、背負った剣の重さを確かめた。


「……結局、何も変わってないな」


世界を救う話は断った。

英雄にもならなかった。

ダンジョンも、モンスターも、世界の歪みも――消えてはいない。


それでも。


ミィは元気よく走り回り、黒猫は先を見据え、シャオは少し遅れてついてくる。

その光景だけで、十分だった。


「なあ」


キースは歩きながら呟く。


「世界を全部救わなくてもさ、

 目の前の困りごとくらいは、手を出してもいいよな」


ミィが鳴き、黒猫が尻尾を揺らす。

シャオは、当然だと言わんばかりに胸を張った。


【スキル〈まねきねこ〉が穏やかに反応しています】


もう、進化を恐れなかった。

使うかどうかは、自分たちで決められる。


丘を越えた先、街道が見えた。

旅人の姿もある。

遠くから、誰かが助けを求める声が、風に混じって聞こえた気がした。


「……行くか」


キースは、迷わず足を向ける。


最底辺探索者。

肩書きは、今も変わらない。


だが、それでいい。


上を目指さないからこそ、見えるものがある。

全部を背負わないからこそ、並んで歩ける。


ミィが先頭に立ち、黒猫が進路を見極め、シャオが後ろを振り返る。

キースは、その真ん中を歩く。


誰かに管理されず、

誰かを管理せず、

ただ選びながら進む探索者として。


世界は広く、歪みは尽きない。

だからこそ、冒険は終わらない。


「よし。次は、どんな面倒ごとだ?」


風が吹き、草が揺れる。

その先に、また新しい物語が待っている。


最底辺探索者キースと、猫たちの旅は続く。

それは、英雄譚ではない。


――けれど、確かに“冒険”だった。

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最底辺探索者キース  新たな冒険編 ?まねきねこ、その先へ? 塩塚 和人 @shiotsuka_kazuto123

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