第2話 外界からの来訪者
草原を抜けた先、小さな丘を越えたときだった。
背後で、空気が歪むような感覚が走った。
「……止まれ」
キースが足を止めると、猫たちも一斉に身構える。
次の瞬間、背後の空間が割れ、複数の人影が現れた。
黒い外套。胸元には、見覚えのある紋章。
探索者ギルドだ。
「やはり、ここに出たか」
先頭に立つ中年の男が、周囲を見回しながら呟いた。
その視線が、やがてキースに向けられる。
「君が――最深層踏破者、キースだな」
キースは剣に手をかけなかった。
だが、猫たちは微かに距離を詰める。
「踏破、というほどのものじゃない」
男は苦笑し、肩をすくめた。
「謙遜だな。
ダンジョンは今、完全に“沈黙”している。
原因は、君だ」
その言葉に、胸の奥がざわついた。
「ギルドとしては、君を保護対象――いや、
“管理すべき存在”として迎えたい」
はっきりとした言い方だった。
評価ではない。分類だ。
ミィが低く鳴く。
黒猫は一歩前に出て、男を静かに睨んだ。
シャオは、キースの足元にぴたりと張り付く。
「……俺は、どこにも所属する気はない」
キースは、そう言って首を振った。
「ダンジョンを越えたら、次は世界を見たい。
それだけだ」
男は一瞬、驚いた顔をし、それから静かに笑った。
「なるほど……だから“特異点”なんだ」
部下たちが何か言いかけたが、男は手で制した。
「いいだろう。
だが、覚えておけ。世界は、君を放ってはおかない」
空間が再び歪み、彼らは来たときと同じように姿を消した。
沈黙が戻る。
「……面倒なことになりそうだな」
キースは小さく息を吐く。
だが、不思議と後悔はなかった。
「管理されるために、ここに来たわけじゃない」
猫たちは、当然だと言わんばかりに鳴いた。
キースは前を向く。
草原の先には、まだ知らない世界が広がっている。
外界からの来訪者は、警告だった。
だが同時に、宣言でもあった。
――もう、戻れない。
最深層を越えた探索者は、
世界に“見つかってしまった”のだから。
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