最底辺探索者キース 新たな冒険編 ?まねきねこ、その先へ?
塩塚 和人
第1話 最深層のその先で
最深層の中心に立ったはずなのに、終わりの気配はなかった。
キースは剣を下ろし、静まり返った空間を見渡す。
「……おかしいな」
魔法陣は確かに沈黙している。
敵意も、罠も、もはや感じられない。
だが、“踏破した”という実感が、どこにもなかった。
ミィが小さく鳴き、足元の光に前足を伸ばす。
すると、床に刻まれた魔法文字が、ゆっくりと形を変え始めた。
「……まだ、続きがある?」
黒猫はすでに気づいていたのか、奥を見据えたまま動かない。
シャオはキースの足に体を寄せ、落ち着かない様子で尾を揺らす。
次の瞬間、空間が“開いた”。
扉ではない。階段でもない。
最深層の奥にあったのは、地平線だった。
風が吹き抜ける。
冷たくもなく、湿ってもいない、澄んだ風だ。
「……外?」
一歩踏み出すと、足元の感触が変わった。
石ではない。土だ。
そして、遠くで鳥の鳴き声がした。
ダンジョンの中にあるはずのない音。
キースは息を呑み、振り返る。
だが、そこにあったはずの最深層は、もう見えなかった。
代わりに広がるのは、空。
果てしなく高く、青い空。
「……はは」
思わず、笑いがこぼれた。
「最深層の“先”が、世界とはな」
ミィが草の上を転がり、黒猫は静かに周囲を観察する。
シャオは空を見上げ、小さく鳴いた。
【スキル〈まねきねこ〉が静かに反応しています】
だが、それは戦いの合図ではなかった。
招くでも、縛るでもない――ただ、“導く”ような感覚。
キースは剣を背負い直す。
「……ここから先は、ダンジョン探索じゃないな」
未知の土地。
未知の文化。
未知の選択。
最深層を越えた探索者に残されたのは、次の階層ではなく――
世界そのものだった。
「行こう、みんな」
猫たちは当然のように並び、歩き出す。
振り返らず、迷わず。
最深層は、終わりではなかった。
それは、“世界を巡る探索者”としての始まりだったのだ。
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