第3話 恐怖!カッコウの巨大ヒナ!
カッコウのヒナは、ゆっくりと前に出る。
「じゃあ、始めようか。黒鉄海とやら。貴様はここで死ぬ以上、鳥生でその名を使うのも最後だろうが……」
「御託はええんじゃ、托卵野郎。それにしても鳥のくせして、相撲を知っとるとは感心じゃのう」
「かっ、解説するっピ!」
先ほど黒鉄海が助けたホオジロのヒナ、ジロウは、震えながらも懸命に声を張り上げた。
「鳥類における神聖なる決闘方法、それは相撲であるっピ!
古来より鳥の世界では、巣という円形の土俵において、押し合い、体をぶつけ合い、相手を巣の外へ出すことで勝敗を決してきたっピ!
人間の相撲とルールは同じだっピ!」
ホオジロのヒナは、必死に本能を辿る。鳥類にとって、相撲は本能に刻まれている。
「鳥類においては、縄張り争い、給餌の優先権、巣立ちの順番、全ては相撲で決まるっピ!」
黒鉄海の目は輝いた。
「相撲か……」
ニヤリと笑う。
「そういうことなら、話は早いわい。ガハハ……おどれ、運が悪かったのう」
黒鉄海は構えを取った。腰を落とす。重心を下げる。
四股を踏む。その動きは完璧だった。
生まれたばかりのヒナとは思えない、洗練された四股の姿勢。
「ワシは相撲取りや。そのうえ、横綱や。相撲で勝負するなら……」
黒鉄海の目が、鋭く光る。
「おどれに勝ち目はないのお!ガハハ……!」
カッコウのヒナは一瞬、気圧された。
だが、すぐに笑った。
「はっ!でかい口叩きやがって!
いいか、新入り。俺は体がでかいんだよ。お前の3倍はある。
このアドバンテージこそ俺たちの強さの本質!それに托卵を何代も繰り返してきた、カッコウの本能が俺の体に宿ってんだ。
生まれたばかりのヒナ、それも小柄なホオジロのヒナが、俺に勝てるわけねえだろ!」
「行司はこの僕、ジロウが務めさせていただきますっピ!」
巣の枝を軍配代わりにして、ジロウは両者の間に立つ。もちろん鳥類の本能には、行司スキルが組み込まれているので突然の取組も問題ない。
「ワシの3倍の大きさ。人間なら、4メートル。400キロ級ちゅうところかのう……ここまで大きいと、出可杉よりは歯ごたえがありそうじゃ」黒鉄海は笑った。
両者は立ち会う。
ガンマンの決闘じみた、数秒の静寂。
そして、その静寂は破られる。
カッコウのヒナは、突進してきた。
巨体が迫る。圧倒的な体格差。
黒鉄海は動じなかった。
「遅い。期待外れじゃ。デカいだけで素人じゃのう」
カッコウのヒナの突進を、黒鉄海は完璧に受け止めた。
「な……!?」
カッコウのヒナは驚愕する。
3倍の体格差があるのに、押せない。この小さなヒナが、びくともしない。
黒鉄海は腰を落としたまま、じりじりと前に出始めた。
「押し相撲で、ワシに勝てると思うな」
「ぐ……うう……!」
カッコウのヒナは必死に踏ん張る。だが、押される。少しずつ、確実に押される。
「馬鹿な、俺の方が重いのに!」
「重い?」
黒鉄海は鼻で笑った。
「ワシは土俵で、自分より重い奴を何人も吹っ飛ばしてきたんじゃ。貴様程度の体重差、何の問題にもならんわい!」
黒鉄海が一気に馬力を上げた。
カッコウのヒナは後退する。巣の中央から、じりじりと縁へ。
「く、くそ!」
黒鉄海の叱咤が飛ぶ。
「体だけでかくて、腰が入っとらん!」
「足の踏ん張りが甘い!」
「そんな生ぬるい押しで、ワシを止められると思うとんのか!」
ジロウは興奮して叫んだ。
「す、すごいっピ!黒鉄海関、完全に押し込んでいるっピ!体格差を物ともしない!これが横綱の相撲……」
ジロウは驚いていた。さっきまでとてつもなく大きく、恐ろしく見えたカッコウのヒナが、横綱の前では、アオムシ程度にしか思えない。
カッコウのヒナはついに巣の縁まで追い詰められた。
「終わりや」
黒鉄海は最後の一押しをかける。
その時。
カッコウのヒナの目が、鋭く光った。
「甘いぜ!」
カッコウのヒナは体をひねり、黒鉄海の押しを横に流す。
「!?」
黒鉄海の体は、バランスを崩す。
「俺の本能を舐めるな!」
カッコウのヒナは反撃に出た。体重を乗せた突進。
黒鉄海はいっきに押される。今度は黒鉄海が巣の縁へ。
「あ、危ない!黒鉄海関、巣の縁まで押し込まれたっピ!」
「カッコウの本能が発動している!何代にもわたる托卵の記憶が、俺の体を動かしている!」カッコウのヒナは叫んだ。
「ほう……」
だが、黒鉄海は笑っていた。
「やるやないか。本能っちゅうのは、技もセットになっとんか。お買い得じゃのう」
「減らず口をっ!」
黒鉄海は巣の縁。あと少しで落ちる。
カッコウのヒナは、最後の一押しをかけてきた。
「落ちろ!」
巨体が覆い被さる。
危うし、黒鉄海!
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