第4話 托卵は誰のために
「落ちろ!」
カッコウのヒナの巨体が、黒鉄海に覆い被さる。
巣の縁。あと数ミリで落下だ。
「黒鉄海関、危ないっピ!このままでは……」ジロウは絶叫する。
カッコウのヒナは勝利を確信していた。
「終わりだ、黒鉄海!この体格差は絶対だ!
俺の本能が、何世代にもわたる托卵の記憶が、お前を巣から叩き出す!」
全体重を乗せた、最後の一押し。
黒鉄海の小さな体はさらに押し込まれる。
巣の縁の枝が、足の下でミシリと音を立てた。
「ぐ……」
黒鉄海が苦しそうに声を漏らす。
「ハハハ!楽になれえ!」
カッコウのヒナは笑う。
だがその時。
カッコウのヒナは、何か異様なものを感じた。
「本能!?何世代の記憶!?
そんなもん、先祖からもらったもんやないかああああっ!」
次の瞬間、黒鉄海の体は光ったように見えた。
いや、錯覚だ。だが、そう見えるほどの気迫。
「己の器で勝負せんかああああっ!
貰いもんに頼って勝負しとる時点で、貴様の負けは決まっとるわああああっ!」
黒鉄海の小さな体に、とてつもない力が漲る。
腰を落とす。さらに低く。
「ワシはなあ! ワシ自身の力で勝つんじゃあ!
誰かからもらったもんやない!ワシが積み上げた力じゃああああっ!」
黒鉄海は反撃に転じた。
とてつもない馬力が爆発する。
「く、くそ!押し返すな!」
カッコウのヒナは必死に抵抗する。
「弱ああいっ!本能に頼っとるだけの軟弱もんが!その性根叩き直したる!」
黒鉄海の叱咤が響き、彼は一気に馬力を上げた。
カッコウのヒナの巨体は持ち上げられる。
「ちょ、待て。待て!……そうだ。一緒に成長しよう、俺のもらったエサもお前に渡すから」
カッコウのヒナは命乞いを始める。
だが、黒鉄海は容赦しなかった。
「待つかボケええええっ!」
黒鉄海は、カッコウのヒナを投げた。
「うわああああっ!」
そのの巨体が、宙を舞った。
3倍の体重があるのに、完全に浮いている。
一回転。
ドサァッ!
巣の端に、カッコウのヒナが叩きつけられた。
ジロウは軍配を上げた。
「黒鉄海関の勝ちいいいっピ!」
黒鉄海は息を整えながら、倒れているカッコウのヒナを見下ろした。
「どうや」
不敵に笑う。
「本能でワシに勝てると思うか?」
カッコウのヒナは、呆然としている。
何が起きたのか、まだ理解できていない様子だ。
黒鉄海は、カッコウのヒナを巣の外に放り出すことはしなかった。
代わりに巣の縁に立ち、周囲の木々に向かって叫んだ。
「おい!そこにおるカッコウども!聞いとるか!」
周囲の木々が、ざわついた。何羽ものカッコウの成鳥が、こちらを見ている。
「ワシは黒鉄海や!おどれらも托卵にプライドがあるなら……ワシを巣から叩き落してみんかい!
ガハハ!何羽でもかかってこいや!」
周囲が静まり返った。
そして、一羽の巨大なカッコウが、空から急降下してきた。
漆黒の羽。鋭い目。圧倒的な存在感。
他のカッコウたちとは、明らかに格が違う。
「あれは……」
ホオジロのヒナが震える声で言った。
「デスカッコウ、托卵道の頂点に立つ、伝説のカッコウ……」
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