記録ファイル

TR No.0144「赤いメモ用紙」

1. 被害記録(Evidence/Logs)

1. 被害記録(Evidence/Logs)


FID:TR-0144-LOG-01

事案呼称:「赤いメモ用紙」

媒体:被害者(佐藤 健一・仮名)の自宅から回収されたスマートフォン内の「メモアプリ」および「自動録音データ」


【ログ01:メモアプリ】


日付:20XX/10/12 23:45


今日、駅のホームのベンチに忘れられていた。


綺麗な、透き通るような赤色のメモ帳。


中身は全部白紙。


ちょうど仕事のアイデアを書き留めるものが欲しかったから、つい拾ってしまった。


明日、遺失物届を出そうか迷ったけど、なんだか手放したくない不思議な感触がする。



日付:20XX/10/13 19:20


会社で使ってみた。


不思議なのは、この紙、どんなペンで書いても気がする。


インクの変色?


それと、書き込んだ予定が、妙にになる。


18退と書いたら、急に部長が「今日はもう上がっていい」と言ってきた。偶然だろうけど。



【ログ02:自動保存された音声データ(書き起こし)】


日付:20XX/10/15 03:12 (※ノイズ混じりの荒い息遣い。時折、紙を激しくめくる音)


佐藤

「……書かなきゃ。書かないと。でも、もう書くことがない。


 明日の予定?


 明日の予定は……『朝起きて、仕事に行く』……いや、それじゃ足りない。


 もっと具体的に書けって、こいつが……。


 あ、手が止まらない。赤い、全部赤くなってる。


 インクじゃない、これ、紙から滲み出してる……」


(※ペンが紙を突き破るような鋭い音が響く)


「……待って。今、勝手に文字が浮き出てきた。


 僕の字じゃない。


 ……『03:15 左腕の切断』?


 なにこれ、誰が書いた……


 やめろ、やめてくれ! うわあああああ!!」


(※凄まじい悲鳴。肉が裂けるような音と、大量の液体が床に滴る音が30秒間継続。その後、静寂)



【ログ03:最後に保存された画像ファイルの内容(記述のみ)】


日付:20XX/10/15 03:20


(※写真解析結果:佐藤氏の居間の床。切断された左腕が転がっており、その中央に「赤いメモ用紙」が置かれている。メモには、佐藤氏の血と思われる液体で以下の通り一文だけ記されている)


「明日の献立:全身」



【補足:警察からの引き継ぎ事項】


通報者は隣室の住人。

「叫び声と、紙をシュレッダーにかけているような異様な音が聞こえた」と証言。


警察が突入した際、室内には大量の血痕があったが、佐藤氏の遺体および切断されたはずの左腕は発見されなかった。


唯一、食卓の上に「真新しい、一点の汚れもない赤色のメモ用紙」が一束だけ残されていた。


本件は直ちにTRC情報統制機構により「重度の精神疾患による自傷・失踪事件」として処理。物理的証拠は全てTRC回収部隊へ移送された。

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