中編

大介クンとママさんに「バイバイ」って手を振って別れた。


『赤い糸』が伸びている駅の方に向かって歩いていく。

駅に近づくとたくさんの人が行きかっているが、誰も『赤い糸』は付いていないし、

俺から伸びる『赤い糸』に気づいている様子もなかった。


歩道の上に伸びている『赤い糸』は通行人たちにガンガン踏まれているが、

全く影響はなかった。


『赤い糸』をたどっていくと、駅の中に伸びていた。

構内に入ってみると、さらに南方面へのホームに向かって伸びていた。

うへえ。

電車に乗らないと行けないのか。


財布の中身は・・・3千円しかない。

どこまで行くことになるんだ?

・・・まあ、いざとなったら親に泣きついて、PAYPAYPAYに入金してもらおう!


長い旅になるかもしれん。電車に乗る前に、コンビニでお菓子でも買おう。

旅行のお菓子代は500円まで、って小学生か!

セルフでボケて、ツッコミしながら、ルンルンしながらお菓子を探す。

・・・少しお高めの、冬限定・イチゴ味のチョコ。君に決めた!


どこまで行くか分からないので、とりあえず一区間だけの切符を買って、

改札をくぐり、『赤い糸』を追いかけて南行のホーム目指し、階段を上がっていく。

ホームには南へと向かおうとする人がぱらぱらといた。


だけど、その人たちにはやっぱり関係なくて、『赤い糸』はホームから下に降りて、

線路の上を北に向かってず~っと伸びていた。


・・・南行のホームに来たのに、北に伸びているってどうなのよ?

・・・それに、線路を歩けってことじゃないよね?


途方に暮れたけど、当然、誰にも、何にも教えてもらえない。

尋ねてみたら、「頭がおかしいんじゃないの」って思われそうだし、どうしよう・・・


「まもなく、●●行の電車が参ります。危ないから黄色の線の内側でお待ちください」

アナウンスが流れ、しばらくすると北から普通電車がやってきた。


後ろに下がって、ぼ~っと待っていたのだが、電車の先頭が俺の前を通り過ぎると、

『赤い糸』が逆に、南に伸びていた!

あわわ!


俺は慌てて、『赤い糸』を追いかけて、普通列車の先頭に向かって駆け出した。

ドアが閉まる直前に、『赤い糸』が伸びている、電車の一番先のドアに駆け込んだ。


プシュ~


電車の中にはパラパラとしか乗客は載っていなかったのだが、

その中の一人、目の前の座席に座っている女子とばっちり視線が交差した。

「「あっ!!」」

片思いのあの子、元永美乃里が目を見開いていた!


元永美乃里、背は165センチくらい、手足が長く、立ち姿が綺麗で、丸っこい銀縁メガネが似合う綺麗な子。


2学期は隣の席となって、少しずつ仲良くなっていったんだ。

授業中も彼女のことが気になって、そっと隣を見てみれば、

真剣に授業に向き合っているその表情が素敵で、

さらにノートをとるその手は白く、指が長めでまさに白魚のよう素敵な手で、

見つめる度にため息がでそうだった。


そんな美乃里が目の前にいる!


!!!

「「あっ!!」」

美乃里の右手の小指から『赤い糸』が伸びている!

やった!やったぞ!


俺の『赤い糸』と繋がって・・・ない!ない!ない!この子との恋じゃないのか!

マジで繋がってない!

なんで!


俺たちの『赤い糸』は繋がる直前、南に向かって平行してず~っと伸びていた!

片思いのあの子と繋がっている!って無上の喜びからの墜落。落差が酷い。

くっ!


気になるけど、まず、美乃里に挨拶せねば!

「こ、こんにちは、元永さん」

くっ、美乃里と呼べないこのモブの辛さよ。


「こんにちは、稲次くん」

美乃里は笑顔を浮かべてくれたけど、明らかに硬い!愛想笑いか!


ただ、空いている隣の席をポンポンと叩いた。

「どこに行くの?ここに座ったら?」

嬉しい!隣に座っていいんだ!


だけど、まずは確認せねば!

運転手、まさかてめえか?

運転席を覗いてみれば、2本の『赤い糸』は南に向かって線路の上をず~っと

伸びていた。ふぅ。


とりあえず安心して、俺は美乃里の右隣に座った。


ああ、もし、『赤い糸』がなければ、「これは運命だ!」って歓喜していたのに!

なのに、『赤い糸』が交わっていないせいで、テンションが上がらない。

っていうか、交わる直前で方向転換って、嫌がらせとしか思えないよ。


「それでどこに行くの?」

もう一度、尋ねられた俺は、左手をそっと美乃里の前に出した。

「ねえ、もしかして、この『赤い糸』が見える?」

「う、うん・・・」


初めて『赤い糸』が見える人が現れたのに、ガッカリ感しかない・・・

「やっぱり見えるんだ。元永さんの右手からも伸びているもんね」

「そうなの」

美乃里の表情はなんだか悲しそう。

ということは、もしかして俺のことが好きなのに、

俺と繋がっていないって悲しんでいるのか!


いやいやいやいや、まさかな。

俺はモブだぜ?

夢を見るのはいいが、現実とはき違えるなよ。

うん。


「昼寝から起きたら、この『赤い糸』に気づいて、どこに伸びているのか

探しに来たんだ」

「私もそう!」

「やっぱり、探しに行くよね!でも、まさか、電車に乗るとは思わなかったよ」

「そうだよね!でも、どこまで行くのかしら?」

「もう夕暮れが近づいて来たし、お金もないから、遠いと困っちゃうね」

「ほんとに!この電車の終点までなら1時間くらいかしら?

そこくらいまでだったらいいんだけど・・・」

「確かに!終点だったら、晩御飯を食べて帰ってちょうどいい感じだね」

「そうだね、うふふ」

美乃里は、今度は自然な笑顔を見せてくれた!可愛い!


これって、俺と晩御飯を食べに行ってくれるってことかな?

幸せな気分になっていたら、次の駅に停車した。

快速電車の到着待ちで、快速電車が出発後、この普通電車は発車するが・・・


「二人とも快速への乗り換えはないみたいね・・・」

「うん。・・・少し時間があるみたいだから、お菓子でも食べない?これ、どうぞ」

冬限定・イチゴ味のチョコを差し出すと美乃里の表情が輝いた。

「あ~、これ!食べてみたかったんだ!いいの?もらっちゃって?」

「もちろん。一緒に食べよう」


美乃里の白魚のような美しい手が伸びてきた。嬉しい。

俺と繋がっていない『赤い糸』付きの美しい手。

どこか知らないけど、ず~っと向こうへ交わることなく、平行に伸びて行く俺たちの『赤い糸』。

悲しい。


「ありがとう、頂くね」

個包装を開いて、小さな赤っぽいチョコを口の中に放り込むと、

美乃里は目を閉じ、すこ~しだけ、ジタバタした。可愛い!


「う~ん、美味しい!稲次くん、ありがとう。稲次くんと出会ってよかった!」

「俺も元永さんと出会えて嬉しい」

微笑みあって見つめ合うと照れてしまった。恥ずかしい。

美乃里の顔も真っ赤になっていた。


くっ!ダメだ!好きが溢れてきた!

アカン!


『赤い糸』がどこに繋がっていようが関係ない!

もう、美乃里に告白しちまおう!


・・・だけど、どのタイミングで?

まさか、電車の中はないよね・・・乗客が一人もいなけりゃアリかもしれんが・・・


イチゴ味のチョコを食べながら、冬休みの宿題のことやお正月のこととかを話した。

思っていたより、美乃里はおしゃべりでコロコロとよく笑ってくれた。

最高に可愛い!


だから、アカンて。

好きが溢れて、溢れて、溢れてしまうやん!


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