気が付いたら、小指に『赤い糸』が巻き付いていた件

南北足利

前編

お昼寝から目が覚め、ふと目についたのは赤い糸。

1本の赤い糸がベッドからず~っとドアの向こうへ伸びていた。


「なんだこれ?」

昼寝前にはなかったハズだけど・・・


「うわっ!」

その赤い糸の出発地点は俺の左手小指だ!

ちょうちょ結びで結び付けられている!


いつの間に?

その赤い糸をほどこうとしたのだが、そもそも触れない!

なんだこれ?


えっ、マジ?

もう一度よく見て、赤い糸に触れようとするが・・・触れない!

・・・もしかして魔法の糸か!

もしかして、『運命の赤い糸』なのか!


いきなりファンタジーの世界に紛れ込んでしまった!

異世界転移か!・・・いや、自分の部屋だったわ。


とりあえず、写メ撮って、ツレに相談しよう。

カシャ!

あれ?赤い糸が写っていない!

もしかして・・・鏡にも・・・映らない!

マジか!


もし、誰にも迷惑が掛からないんだったら、ピーンと張っていたらいいのに、

赤い糸は律儀に床を這っていて、ドアの外を見てみれば階段下へ伸びていた。


よしっ、この『運命の赤い糸』が誰と結ばれているか、探しに行こう!

片思いのあの子、元永美乃里だといいなぁ。無理か。


俺の名は稲次真悟。なんちゃって進学校の高校2年生。

姿かたち普通、成績普通、人間関係普通、きわめて普通。

言ってて空しくなってきたわ・・・


昨日クリスマスイブ、つまり2学期終業式の終了後、

クラスの有志で、クリパが開かれたんだ。

その中に俺も紛れ込んで、みんなとカラオケで楽しく盛り上がったんだけど、

その中に、片思いのあの子、美乃里もいた。


隣に座って、たくさん話をして、二人っきりでこっそり抜け出して、告白して、

今日、12月25日のクリスマスに初めてのデートして・・・

ってピンク色の皮算用は無残に打ち砕かれた。


話すどころか、近づくことも出来ずに終了してしまったんだ。

美乃里はトップカーストたちにがっちりと囲まれていて、

しかも彼らと二次会に行ってしまった。真悟、ショック・・・


そして、今日、クリスマス・デート(妄想)がキャンセル(妄想)されてしまい、

ふて寝していたワケ。


だけど、キタコレ!今から、クリスマス・デートに行くぜ!


相手は誰だか知らんけど。


初めてのデートだから、精いっぱいのオシャレをして、さあ、出発だ!


意気揚々と家の外に出てみれば、アスファルトの上に『赤い糸』がず~っと伸びていた。


最寄り駅の方へ向かっているその『赤い糸』をたどって歩き出す。

どうやら少し進むたびに『赤い糸』は少しずつ短くなっていく便利仕様だった。

引っ張られているワケではなく、『赤い糸』はただず~っと向こうへ繋がっていた。


向こうから人が来るたびにドキっとして、この人が『運命の人』かって凝視した。

だけど、すれ違う人たちに『赤い糸』なんて付いてなくて、

それどころか、伸びている『赤い糸』に誰も気づいていないようだった。


・・・もしかして、『まぼろしぃ~?』、それとも俺の頭がおかしくなった?

怖いわぁ、不安だわぁ。

・・・まあ、いい。とりあえず、誰と・・・どこと繋がっているか調べよう。


『赤い糸』は家と駅の間にある大きな公園を通っていた。

この公園は街中にしては大きな公園で、その外周をランニングしたり、ウォーキングしたり、広場で遊んでいる人がたくさんいるが、やはり『赤い糸』に気づく人はいなかった。


『赤い糸』をたどって歩いていると、困ったようにウロウロしている男の子がいた!

3歳くらい?の男の子の傍には親や兄弟、誰もいない。もしかして、迷子か?

その男の子と『赤い糸』は繋がっていないけど、捨て置けないよな!


ゆっくりと近づいて、少し距離をおいて、しゃがんで、目線をあわせた。

「ボク、どうかした?」

ニッコリとして話しかけたのだが、その男の子は今にも泣きそうだった。

「ママ・・・」


「そうか、じゃあ、兄ちゃんが一緒にママを探そうか?ボクの名前は?」

その男の子は必死で泣くのを我慢して、右手で3をつくった。

「大介、3歳」

「そうか、大介クンは3歳か。名前と年を言えるなんて賢いな!凄いな!強いな!」

大げさに褒めてやると大介の顔が少しほころんだ。


「じゃあ、一緒にママを探そう!手を繋ぐ?肩車しようか?」

大介の顔がキュピーンとなって、両手を高く上げた。肩車をご所望のようだ。

「よしっ、お兄ちゃんの上に乗ったら、ママはすぐ見つかるぞぉ!」


「ほわわぁ!」

肩車すると、大介のテンションが上がったようで、パシパシと頭を叩かれた。

痛くない。それどころか嬉しい。


でも、もし、この『運命の赤い糸』が大介のママさんと繋がっていたらどうしよう。

俺ってば、ママさんと結婚して、大介のパパとなるのか?悪くない気がする。

・・・いや、ママさんがシングルとは限らん。

シングルじゃなかったら、本当のパパから略奪しろってことか!

マジか!

あわわ!


そんなバカなことを考えながら、とりあえず、『赤い糸』をたどって歩き出す。

「大介くんのママはいませんか~!」

「ママァ~!」


二人で、何度か大声を出して注目を浴びながら歩くこと3分。

「大介!」

悲鳴のような声が聞こえて、若い女の人が駆け寄ってきた。

小学校の参観日で自慢できそうな、小柄で、綺麗なママさんだった。


「ママ!」

俺の肩の上から両手を伸ばす大介を受け止めようと、ママさんが両手を伸ばした。

ママさんが大介をぎゅっと抱きしめた。

「大介!よかった!」


うん、本当によかった!

なお、『赤い糸』はママさんに繋がっていなかったよ。ほっ。

でも、サブミッションはクリアだ。


ママさんは大介を抱っこしたまま、頭を下げてくれた。

「ありがとうございます!」

「いえいえ、連れまわしてすいませんでした」

「そんなことないです!全然、反対方向を探していたんで。

本当にありがとうございます。ほら、大介もお礼を言って」


ぎゅ~っとママさんにしがみついていた大介がちょっとこっちを見て、

ニッコリと笑って可愛らしく手を振った。

「あ~とっ」

ズキューン!可愛い!

この子と『赤い糸』が繋がってないのがちょっと残念だわ!

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