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 チャールズ・コンウェイ(2055 - ) アメリカ合衆国の政治家、科学者。2059年、バリー・チェンが行った北米連続テロ事件により父と妹が死亡。14歳でBIF施術を受けたのち、2073年に主著『幸福と自由の維持』を発表。インテリ層から多大な支持を受けた彼はアンナチュラル運動の旗手として……

   クヮ・サリヴァン著『アメリカ合衆国興亡記』より抜粋




 3 暴走する正義


 二千六十一年、午前十一時三十五分、郊外のハンバーガーショップで、当時六歳のチャールズは母親のレイチェル・コンウェイと週末のキャンプについて相談していた。その時、店内に若いスウェーデン人の男が入ってきた。彼のジャンパーには四丁の二十三口径が潜んでいた。

 男はカウンターに腰を下ろし、ウェイターに何かをつぶやいた。注文を聞き返したその顔に向けて、二十三口径が火を噴いた。


 鮮血と窓ガラスが飛び散る中、レイチェルは幼い息子に覆いかぶさり、「愛してる」とささやいた。その最期の言葉は、チャールズの中にいつまでも残り続けた――



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 シチューの中に、溶けかけたニンジンが浮かんでいる。

 それを憎々しげに見つめていたヨルダの耳に、鍵の開く音が届いた。

「パパが帰ってきたよ」

 そう言って玄関へ向かう母の背を、ヨルダは追った。

 二人が見たのは、青い顔で壁にもたれるウィリアムの姿だった。

「水をくれないか」

 掠れたその声を聴いた時、ヨルダのメモリから、一つの指令が発された。


 戸惑う母を追い抜いて、ヨルダが父に抱き着く。

 ウィリアムは力なく笑うと、

「すぐ行くから、飲み物を用意していて」

「……わかったわ」

 母の背を見送った後、ヨルダは父の腕を引いて、その手のひらに指を乗せた。

「あのね、これ」

 小さな人差し指が、ウィリアムの手のひらをくすぐる。彼はそれを微笑ましく見つめていたが、やがて異変に気が付いた。


 ヨルダは、を書いていた。


 二人の意識が指の軌跡に集中する。十三秒後、その動きが止まった時、ヨルダは達成感とともに父を見上げた。

 ウィリアムの目から、一筋の涙が落ちた。

 青ざめた唇を震わせて、自戒するように呟く。

「ここには、居られない」

 家を飛び出す寸前、彼は娘を抱き寄せてこう言った。

「君たちを、愛してるよ」


 その言葉は、ヨルダの中に残り続けるだろう。

 かつての私が、そうだったように。

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