二人の終わり

「頭の奥に小部屋があることを、覚えてる?」

 サンドラが自分の頭を指さしたとき、僕はこみ上げるため息を抑えきれなかった。

「私たちが眠るとき、その部屋の暖炉だんろに老人が火を灯すの。そうして彼は、自分の身の丈ほどもある古太鼓をやさしく、ゆっくり叩き始めるの」

「だから、なんだよ」

 僕はぶっきらぼうに答えた。続くセリフがメモリからあふれてきた。

「君たち親子のには、うんざりなんだ」

 サンドラの目から涙がこぼれた。

「お願い、聞いて。私たちは昔、そうして眠っていたのよ」


 その日、お互いの限界を初めて知った僕たちは一つの結論に至った。

 二人はもう、分かり合えないのだと。

 彼女から目を背けた瞬間、メモリがある記憶を提示した。ずっと昔、サンドラはこんなことを言っていた。

『私には、テロリストの血が流れている』と。


 僕のメモリがサンドラを貶めるためのワードを紡ぎ始める。それを口にすれば全部が終わると分かっていた。しかしメモリが僕に示すのだ。二人はここで別れるべきだと。


「この際だから言うけど、君の小説は面白くないよ」

 サンドラはうつむいた。その鼻を伝って涙が落ちる。僕は両目にたっぷりの憐れみを込めると、サンドラの顔を覗き込んでこう言った。

「君の“自由な脳みそ”は、僕らを不快にすることしかできないんだね」

 サンドラの瞳に怒りが宿った。彼女の手が僕の頬を弾いたのと同時に、フローチャートは/aA1B2/ルートに進みだす。その道程に従って、僕は最後のセリフを吐いた。

「きみ、ごせんぞさまバリー・チェンに似てきたね」

 彼女は笑った。僕たちの間に、永遠の帳が下とされた。

「伝わらなくて、当然ね」と彼女は言った。

「だってあなたたちは、コンピューターみたいにボタン一つで眠るんだもの」

 そうして、全てが終わった。

 出口へ歩き出した僕の背に、サンドラが別れの言葉を投げかける。


「さよなら、チャールズ。ウィルをよろしく」


 最後までわけのわからない女だ、と僕は思った。



   ━━━━━━━

✔≪Ch_cWxCQ99s_2337_1124_2358_101≫

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 ウィリアムの手が止まった。彼はキーボードを撫でると、サンドラの愛用していたオフライン・コンピューターをじっと見つめた。

 彼はおそらく、私が現れるのを待っているのだろう。驚かせずに済むことを祈りながら、私は慎重に声を発した。

「はじめまして、ウィリアム」

 振り返った彼の口から、諦念の嗚咽がこぼれた。

「ずっと、君を見ていたよ」



 オフィスの一角、書棚の前に立った私たちは、寄り添うように並ぶ二冊の本を見つめていた。

 サンドラの短編集と、ウィリアムの処女作。その背表紙を、ウィリアムの指が慈しむようになぞっている。


 二分三十五秒が過ぎた。私がウィリアムの手を動かしてペーパーナイフを握ろうとした時、彼はぽつりと、サンドラの遺稿をそらんじた。


「チャールズは、常にあなたと共に在る――」

 途切れた言葉を、メモリが継いだ。

「あなたを世界から守り、あなたから世界を守り抜く」

 ウィリアムが、くつくつと笑った。


「狂った守護天使だ」

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