第11話 深層の影

迷いの分岐を越え、さらに奥へと進むキースと三匹の猫型モンスターたち。通路はますます暗く、湿気と冷気が肌に刺さる。足元にはひび割れた石や古代の魔法陣がちらほらと見える。


「……深層に入ったな。」

キースは小さく息をつき、剣の柄を握り直す。

ミィ、黒猫、シャオも警戒を強め、前方の暗闇をじっと見据えている。


通路を進むたびに、微かに人の気配のような影が揺れる。壁に映る影は大きく、不規則に動いている。


「……あれは……?」

キースは息を呑む。視覚的な幻覚か、それともモンスターの影か。深層では常識が通用せず、油断は命取りだ。


突然、前方の闇から巨大な影が立ち上がった。二つの光る瞳が、キースと猫たちを見据えている。


「……くっ、やっぱり敵か。」

キースは剣を握り直し、三匹に目配せする。


【まねきねこ、発動】

【対象:ミィ、黒猫、シャオ】


猫たちは前に出て、影の動きを牽制する。小さな体だが、動きは機敏で、敵の攻撃の軌道を読みつつ、互いに連携して翻弄する。


影の正体は、巨大な影霊のようなモンスターだった。半透明で、人型の輪郭を持つが、体の端々が不規則に揺れ、触れれば実体にダメージを与えられるかもわからない。


「……この相手、やっかいすぎる!」

キースは冷や汗をかきつつ、猫たちの動きに合わせて剣を振る。ミィが左、黒猫が右、シャオが後方から攻撃の隙を作る。影霊は攻撃を避けるたびに、形を歪めて再び襲いかかってくる。


戦いは長引き、息も荒くなるが、猫たちは集中力を切らさない。互いに体を寄せ合い、キースを守りつつ、影霊の動きを封じる。


「……俺、行くぞ!」

キースは決死の覚悟で剣を振り、影霊の中心部をかすめる。痛みや恐怖を押し込め、次の攻撃のチャンスを作る。


その瞬間、ミィが前に飛び出し、影霊の注意を一瞬逸らした。黒猫とシャオも連携し、影霊を中央で固定する。

「……よし、これだ!」

キースは力を込めて剣を振り、影霊の体に深く切り込みを入れる。


影霊は不規則に揺れ、うなり声をあげながら後退した。その隙に、キースと猫たちは安全な位置まで退避する。


「……ふう、危なかったな。」

猫たちは小さく鳴き、互いの体を擦り合わせる。疲労はあるが、信頼の絆はさらに深まった。


広間の奥で息を整えながら、キースは思う。

「……深層の敵は、単純な力じゃ倒せない。信頼と戦術が全てだ。」


闇の奥で、影霊の残像がゆらゆら揺れる。次に何が襲いかかるかわからない――それでも、キースと猫たちは恐れず、深層の先へと足を進める。


「……行くぞ、ミィ、黒猫、シャオ。」

三匹の猫が小さく鳴き、キースの周りに集まる。

「俺たちは、どんな影も乗り越えられる――そう信じて進むんだ。」


深層の影に包まれながら、最底辺探索者と猫たちの挑戦は、さらに激しさを増していった。

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