最終話


深夜のコンビニは明るすぎる。

明るさが均一で、逃げ場がない。


入店音が鳴る。

鳴り方が少し遅れた。

前回は、早すぎた。

どちらが正しいかは分からない。


棚の前で止まる。

おにぎり。

前回は新商品を選んで、味を忘れた。

だから今日は定番にする。

結果、これしか残ってない。


なるほど。

安定は幻想だ。


レジは一台だけ開いている。

店員は若い。

表情が一定。

一定すぎる。

目が合った気がしたが、たぶん違う。


コーヒーマシンの前で、彼女を見つけた。


紙カップを持ったまま、固まっている。

サイズを間違えたらしい。

それは分かる。

俺も前回、間違えた。


「このボタン、分かりにくいですよね」


分かっていて言う。

分かりやすい。

だが、そう言わない。


「……そうですね」


彼女はそう返して、結局、何も押さなかった。

店員が来て、操作した。

問題は解決した。

でも、何も解決していない。


会計。

小銭が一枚足りない。

前回は多すぎた。

今日は足りない。

どちらも正しくない。


袋はいりますか、と聞かれる。

前回は断った。

だから今日は頼む。

おにぎりだけだが。


外に出る。

彼女も同時だった。


自動ドアの前で、少し間が空く。

どちらが先に出るか。

判断が遅れる。

いつも通りだ。


「今日は、静かですね」


俺は言う。

分かっている。

遠くでサイレンが鳴っている。


「……そうですね」


彼女は、少しだけ笑った。

理由は分からない。

聞かない。


駐車場の白線が、やっぱりずれている。

前回より、少しだけ。


《これは、誰も生き残る必要のない話である。》


――次は、ホットスナックを買おう。

レシートは、風で裏返ったまま動かなかった。

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マシだった気がする キンポー @kinposakatani

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