第7話

深夜のバーガーショップは、匂いが強い。

油。

紙。

くたびれた葉物。


俺はカウンターの端に立つ。

前回は中央だった。

人の流れが止まった。

今日は端。

学習したつもり。


メニューを見る。

写真が多い。

信用しない。

でも見る。


「単品で」


言い切る。

前回はセット。

ポテトが冷めた。

今日は避けた。


番号札を受け取る。

軽い。

頼りない。


席に座る。

窓際。

外が見える。

前回は壁。

閉じていた。


彼女は少し遅れて来る。

同じ時間。

同じコート。

違う色。


「こんばんは」


「どうも」


彼女は迷う。

長い。

そして、セット。


(やはりそうか)


番号が呼ばれる。

俺の。

早い。

嫌な早さ。


紙袋は温かい。

熱すぎる。

前回は、ぬるかった。


席に戻る。

包み紙を開く。

音が大きい。

破れた。


一口。

甘い。

思ったより。


(ソース、多いな)


彼女はまだ食べない。

袋を覗く。

何度も。


「それ、違いません?」


唐突。


「何がですか」


「前、もっと普通でした」


前。

どの前だ。


(なるほど。

記憶が、先に来た)


レシートを見る。

間違っていない。

写真とも違わない。


もう一口。

やっぱり甘い。

でも、前回よりは温かい。

というか熱い。

(前回のほうが、まだマシだった、とは言えない)


彼女が言う。


「私の、ピクルス入ってないです」


袋を見る。

確かに。


でも、彼女は戻らない。

座ったまま。


俺も戻らない。

前回は戻った。

時間がかかった。

今日は、このまま。


彼女が先に食べる。

一口。

止まる。


「……まあ、いいです」


理由は言わない。


別れ際。

彼女が立つ。


「また」


「ええ」


俺は分かっていて言う。


「次は、単品の方がいいです」


彼女は一瞬止まる。

振り返らない。


バーガーは最後まで甘かった。

紙は油を吸いすぎていた。


《これは、誰も生き残る必要のない話である。》

(包み紙は、破らない方がいい)

店内のBGMが、同じサビに戻った。

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