3−1
衣食住という言葉がある。今僕は、食と住居はありがたいことに満たされている。しかし。
「やばい。着替えがない。」
あ、とラブは口を開け、
「確かに…人間の、しかも男性の服なんてこのへんにはないよね。」
この前、街でインキュバスを見たが、前を全開にしたベストと、前方丸出しのパンツで…品のない水着のようだった。
あれを自分も着る?耐えられそうにない。
「そういえば、ラブはいつも同じ格好だよね。洗濯とか、着替えは?」
すると彼女は、センタク?と首を傾げた。
まいった。そもそも”洗濯”の概念がない。
順を追って説明すると、
「なるほどー。多分人間と魔物で、汚れとか新陳代謝が違うんだろうね?」
とラブは答えた。
「この違いについて、伝わってはいないのか?」
「『人間は汚れやすく、頻繁に服を変える』なんて、たとえ書いてあってもスルーしちゃうよー。」
とにかく、割と一大事。このままだと不衛生である。
二人で街に出て、服を探すことにした。
サキュバス社会の、被服事業は「最低限の需要はあるが、回転率は良くない」感じだった。
彼女らは人間と比べ、ファンションをそこまで重要視していない、一種の道楽のような扱いだ。故にそこまで発展しておらず。
仮にインキュバス用を見つけても、前から自分の情けない”それ”がポロンと出るものばかりで、悲しい気持ちになる。
せめてオーダーメイドできたら良いのだが、そのような面倒ごとを気前よく引き受ける者も少なかった。
複数件店を周り、ようやくなんとか注文を受けつけてもらえた。
安心して帰路に着くと、サキュバスの服としては珍しい、ピンクの(真っ当な)ワンピースが展示されていた。
「人間は全裸よりも少し隠されている方が魅力的に感じるって教えられたけど、本当?」
とラブが聞いてくる。
「黒間くんが望むなら、なんだって着るし、いつだって脱ぐよ?」
…男なら嬉しいと思うべき言葉なのだろうな、と感じた。
『ファッション需要は低め。しかしまともな衣服も小数ある。サキュバスの美的センスは今後調査の余地あり』
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