2−1

寝囊の中で目覚めると、壁が「おはよう」とばかりにぬるりと体を撫でる。

僕はまだ少し寝ぼけ眼で、ラブの背中に腕を回したまま呟く。


「…朝?」

「朝、というか1日って概念がないかな。」

ラブはぴょんと起き上がり、僕の頬にお目覚めのキスをした。

「でも黒間くんが寝て起きたから、”2日目”ってことでいいよね」


「さて!黒間くんがここで過ごしていくからには、守るべきルールがあります!」

と、ラブは真面目ぶったそぶりで話す。

「ルール、つまりは法律みたいな?」

そうそう、とラブは頷いて続ける。


「地区ごとに細かい違いはあるんだけどね、魔界共通で順守すべきルールがあるの!」


それは?と返すと彼女は僕のメガネをひょいと持ち上げ、

「『他人の所有物を奪いさるのはダメ!』これは絶対だよー!」

と、メガネを返してくれる。


「…じゃあ、”奪う”と”もらう”の線引きは?」

「合意の有無と、あとは契約の関係かな?」

なるほどと、手元のノートにメモして、

「じゃあもちろん”買う”のはオッケーか。」

「あ、ヤラシ区に貨幣制度はないよ?」


…え?と目を丸くする。貨幣制度がない?信じられない。

「じゃあどうやって…?」

「欲しいっていって、あいてが『いいよ!』なら取引成立!でもここにもルールがあってね。」


「『既に解消されている問題のためにものを得るのはダメ!』過剰に食料をもらうとか、欲しくもないものを溜め込むとかね。」

なるほど。つまり本当に欲しい時にしか成立しないらしい。


「でも、嘘の申告もできるんじゃあないか。」

「そう、それが魔界でいちばんのトラブルの元。『悪意ある嘘で騙す』というのは最大のタブーだよ!」

「…まあ、イタズラ程度ならいいんだけどさ♡」


なんだか、自分の中での”魔物感”が崩れる。もっと彼らは狡猾で、残忍で、無秩序だと思っていたのだ。

それをラブに伝えると、

「まー、伝聞って都合よく改変されるからねー」

と、やれやれといった風に答えた。


『魔界にもルールあり。強奪と虚偽は重要な問題。』



「ちなみに、ルール違反の罰は?」

「即、”死”だよ!」

意外に重かった。

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