第2話 入学式と自己紹介

 私とゆきくんが出会ったのは9ヶ月前、私、石原伽藍はこの五十嵐東陵高等学校へと入学した日だった。入学した理由は単純、私の家から学校まで徒歩10分以内で行けるほどの近さで、それほど学力を求められる高校ではなかったからである。だが私含め周りの人たちはみんな他の頭のいい高校へ進学してしまい、私は高校で新たな友達を作らなければならなくなった。しかし、その問題はあっさりと解決してしまった。入学式が終わった後、私の容姿に見惚れた人たちが男女問わず私の机の周りに群がって私の容姿を褒め称える。髪がサラサラだの肌が綺麗だのほっぺがぷにぷにだの言ってくるが出会って数分の人のほっぺたを触るな気持ち悪い。だがこのことは簡単に予測できた。なんせ1年前に私がここに転校してきた時にも全く同じことをされたからだ。みんな私の『容姿』だけを見て、私を...石原伽藍を見てくれる人なんて誰一人としていない...この日まではそう思っていた。私が群がってる奴らをかき分けてお手洗いに行く途中、たった一人席に座っている男子生徒を発見した。男子にしては小柄で黒色の髪をしている。そして驚くべきはその男子生徒の目は私や群がっているクラスメイトではなく、手に持っている本に釘付けにされているようだった。世の中には色々な人間がいるが、私が生きている中で出会ってきた人間の全ては私の容姿に虜になっている者しかいなかった。なので私は目の前で起きている状況に思わず目を丸くしてしまった。

 私がお手洗いから戻ると、タイミングよく教師が来てホームルームが始まった。だいたいこの手のホームルームではまず自己紹介をする。もちろん私のクラスも例外ではなかった。出席番号順に自己紹介をしていき、気づけばラスト、先ほど視線が本に釘付けされていた男子生徒の順番であった。周りのみんなは興味がないのか、仲良くなった周りの席のやつらと談笑していたり、携帯をいじっていたりしているが、その中私はその男子生徒の自己紹介を真剣に聞く体制を自然に取っていた。おい私の隣でだべってるやつ、自己紹介が聞こえなくなるだろ。だまりやがれ。そんな心の声が漏れそうになった時、その男子生徒が自己紹介を始めた。

「初めまして。弥生ゆきです。趣味は見ての通り読書です。よろしくお願いします。」

弥生ゆきと名乗った男子生徒は、そんな定型文のような自己紹介をしたのち、ゆっくりと着席した。弥生...聞いたことがない苗字や声結構可愛かったなぁと弥生ゆきの自己紹介を聞いた感想を考えながら教師の話を聞き流す。私がこんなにも他人のことを考えるのはかなり珍しい。基本他人のことは嫌って生きてきた。だってあいつらが興味を示しているものは『私』ではなく『私の容姿』なのだから。だが弥生ゆきは違う。こいつは『私』はおろか『私の容姿』にすら興味を示さないのだから。

 それからしばらく経ち放課後。私は校門でとある人を待ち伏せしていた。無論、弥生ゆきのことをだ。そしてしばらくすると小柄で黒髪の男子生徒がこちらは向かってきた。私はその男子生徒に声をかける。

「ねね!ちょっと時間大丈夫?」

「...」

無視しやがった!!

自分のことだと気づいていないのだろうか?

「ねぇちょっと!!そこの小柄の男子!!」

「...?もしかして僕のことですか?」

そんなことを言っているが、今この周りには私とお前しかいないからお前以外ありえないんだけどね!

「もしかしなくともさ!君、弥生ゆきって名前でしょ!」

「?なんで僕の名前を知っているんですか?」

同じクラスだからだよ!!あんなに人だかりできてたのに私のこと覚えてないとかどんだけこいつ読書に夢中だったんだよ!!

「えぇー!同じクラスだからだよー!覚えてない?私のこと」

「すみません。生憎と、僕は他人への興味はこれっぽっちもありませんから」

だとしても興味なさすぎだろ!!

「それでは僕はこの後予定があるので、また会いましょう」

「え、あっ...」

行ってしまった...

にしてもあいつどんだけ人に興味ないんだよ。

私はこの時から弥生ゆきにどのようにして興味を持ってもらえるか考えるようになり、その試行錯誤をする日々が幕を開けた。

これが私とゆきくんの出会いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕は彼女を思い出せない @yukifat32

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る