僕は彼女を思い出せない
@yukifat32
第1話 記憶のない僕と銀髪の少女
僕はいつものように朝自室のベッドから起き上がった....つもりなのだが、どうも体が動かない。
てか体を動かそうとすると所々痛い。寝相悪すぎて壁にタックルでもかましたのだろうか?
とか考えながら重い瞼をゆっくり開くと、そこは自室ではなかった。白い天井に仕切りのカーテン、体に付けられた管。どうやら僕は病院のベッドで寝ていたらしい。
なんで?
そんな言葉が頭中を駆け巡った後に僕の手を握りながら眠っている少女が視界に入った。
身長は160cm前後、美人というよりも可愛いという表現が似合う容姿と銀色の髪。もし可能であれば恋人にしたいぐらいだ。
そんな少女が、僕の手を握りながら寝ているというよくわからない状態が、僕の混乱をさらに加速させる。そんなカオスな状況の中、またさらに状況のカオスが加速する。
「ん...ふにゃぁ...ゆきくーん?」
彼女が僕の名前を呟きながら起きてしまった。
ん?待てよ...なんでこの子は僕の名前を知っているんだ?そしてなんで手を握っているんだ?
おそらく僕はこの状況を理解することができた。しかし、だとすれば明らかにおかしい点がある。
僕は彼女に関する記憶が一切ない。
なんの誇張もなく彼女との思い出はおろか、名前すら思い出せない。だから僕は彼女にこう言うしかなかった。
「すみません。あなた誰ですか?」
僕がそう言葉をかけて数秒の沈黙が続いた。そして彼女は膝から崩れ落ちた。そりゃそうだ。呼び方的に、彼女からの好感度はかなり高い感じであった。そんな人から急に「あなた誰ですか?」とか言われた日にはもう立ち直ることはできない。
おそらく僕が彼女の立場であればそうなっているだろう。しかしここで変に記憶があるフリをしても、すぐにボロが出てどのみちバレてしまう。そうなると彼女のショックはこれの倍以上のものになるだろう。だからここでカミングアウトするしか無かった。ごめんよ、銀髪の少女。
「うそ...ゆきくん...嘘だよね?」
涙を浮かべながらそう訴えてくる彼女に、僕は沈黙を返すことしかできなかった。
「そんな...こんなの...こんなのって...」
彼女の嗚咽混じりの泣き声が病室中に響かせていた彼女の姿は、窓から入る夕陽に照らされていた。
彼女の声を聞いたのか、看護師らしき人が僕の病室を開けた。とても驚いている様子だった。え?僕そんなに大怪我したん?看護師は慌てて先生を呼びに行き、彼女の泣き声は開いた扉から、病院中に響いていた。
あの後医者が来て、自分が交通事故にあったこと告げられた。大型トラックに撥ねられ、かなりの重傷だったらしい。その結果、僕は記憶喪失になってしまったようだ。覚えているのは弥生ゆきと言う名前と家族のことについてだけ。そして医者は彼女のことについても教えてくれた。名前は石原伽藍。どうやら僕は彼女を庇って撥ねられたらしい。かっけ僕。僕が意識不明の間、毎日お見舞いに来てくれたという。めっちゃ優しいやんけこいつ。僕は彼女を泣かせてしまったことへの罪悪感がさらに強まった。寝れるかなぁ...これ。
医者のバカ長い話も終わり、外はもうすでに暗くなり、彼女は家に帰ってしまった。...明日もお見舞いに来てくれるだろうか。僕はもう一度、彼女に関する記憶を探そうと、頭をフル回転させる。しかし出てくるのはお母さんの口癖やお父さんの武勇伝ばかりで、彼女に関する記憶は一つも出てこなかった。石原伽藍...か。今は彼女のことで頭がいっぱいだ。明日もお見舞いに来てくれるのだとしたら、僕は彼女に何をしてあげればいいのだろうか。記憶のある頃の自分のことなんてわからない。彼女とどんな関係だったのか、どのようなことを話し、どのような生活を送っていたのか、僕は無性に気になって寝ることができなかった。そしてあることを思いついた。
次の日の昼頃、伽藍さんがまた僕の病室へとやってきてくれた。
「こんにちは、伽藍さん」
「ゆきくん!?思い出したの!?」
突然の名前呼びに伽藍さんは目を丸くしている。
まあ昨日「誰ですかか?」とか聞いてきた記憶喪失の友達が次の日に名前で呼んできたら驚くのも無理はないか。
「いいえ、昨日お医者さんから名前を聞いただけです」
「そっか...でも名前で呼んでくれて、私とても嬉しい!」
「ところで伽藍さん。僕から一つお願いがあるのですが」
「ん?何?ゆきくんのお願いならなんでも聞く!」
彼女が満面の笑みでそう返した。
「伽藍さんと僕に関する思い出を話してくれませんか?もしかしたら何か思い出すかもしれないので」
「わかった!ちょうど私の暇つぶしにもなるし!」
そう僕が提案すると伽藍さんは満面の笑みで同意してくれた。僕が伽藍さんとの過去を知る一番手っ取り早い方法。入院生活はかなり暇で退屈と聞いたので、僕の暇つぶしにもちょうどもってこいだった。それに、普段人に興味を示さない僕が興味を示すような人だ。過去にどのようなことをしてきたのか普通に気になる。そして彼女は近くの椅子に座り、会話を続ける
「ゆきくんとの思い出かー、いっぱいあるけどどこから話そうか」
「うーん、それじゃあ僕と伽藍さんの出会いから話してくれませんか?」
「わかった。それじゃあいくよ。あれは9ヶ月前の入学式の後...」
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