第4章ー1 礫岩の火山口
「さあ!1回戦の粛清が完了しましたので、次の試合へいってみましょう!ルーレット、スタート!」
スクリーンに凄惨な場面が一通り流れた後、再びモーヴィスが対戦表を読み上げる。
「第2回戦!太古より大地に降り立ち世界を創り上げていった大いなる存在!その姿も巨大にして厚情なる奈落の大王!巨人族、『巨影大王』ウルトリキューロス!」
肘枕をして横になっていた〈巨人〉は名前を呼ばれてゆっくりと瞼を開ける。大きな鉄球が足に繋がれ、山鯨の皮でできた古びた着流しを着て、土気色の顔にはもじゃもじゃの髪と髭が伸び放題で輪郭の判別がつかないほどだ。
「対するは、神聖なる存在か?はたまた巨悪の権化か?天を舞う雄大な姿は神と見紛う絶対的最強種であるドラゴンの頂点!竜族、『竜帝』ヘヴンズゲート!」
長い鎌首を上げてモーヴィスを見据えるモノもまた巨大なドラゴンの姿で、雪のように白い巨躯が輝き、金の装身具が所々に見られ、ドラゴン特有の大きな尾と翼が撓り全身には無数にある羽毛のような霜が生えている。
「今回、ルーレットが示す戦場は、・・・礫岩の火山口!御二方にご武運を!レディファイト!」
噴煙が昇る火山周りの渇いた大地に石が敷き詰められて凸凹した足場になっているが、そこに立つ40mを超えるモノ共には砂利のようなものだろう。沈黙の睨み合いをする巨人と竜は乾いた風を受けながら身構える。そして、
ドド――ンッ‼
火山が噴火して地鳴りが起こった途端、ウルトリキューロスが踏み出して巨大な右ストレートをヘヴンズゲートに振るう。しかし、ヘヴンズゲートは大きく羽ばたいて宙を舞いウルトリキューロスの上空を旋回する。それを見たウルトリキューロスは右手を口元に近づける。
「矢と弩を作り出せ!『虚滅主の帯』よ。」
ウルトリキューロスは右親指にある指輪に何か呟くと、地面が隆起して土塊から大きな弩と矢が出来上がった。ウルトリキューロスはそれを左手で掴んでヘヴンズゲートに狙いを定め、何本もの矢を撃ち出す。ヘヴンズゲートは幾本かの矢を躱しながら滑空していく。
「・・・竜の息吹を浴びるがいい!浸蝕する竜の灼熱『ドラゴンブレス』!」
ウルトリキューロスに向かって急降下していくヘヴンズゲートは火花を上げて鉄をも容易く溶かす灼熱の竜の息吹を吐き返していく。
「囲め!空冷する防壁!『スヴェル』!」
ウルトリキューロスはすかさず指輪に命じるとガラスを敷き詰めたような土壁を周りに築き上げ、土壁は放電して大気が渦を巻いて厚い層となり竜の息吹を防いだ。そしてウルトリキューロスが足に繋がれた鉄球を持ち上げるとすぐに足枷が解かれ、その鉄球は棘が生えたモーニングスターへと変形していく。スヴェルの土壁が竜の息吹による熱によって次第に崩れ始めると、ウルトリキューロスはヘヴンズゲートに狙いを定めてモーニングスターを力強く握りしめる。
「ウラアア―――‼大いなる鉄鎚『スレッジハンマー』!」
ウルトリキューロスはドラゴンブレスで融けた土壁を巨人の怪力によって破り、ヘヴンズゲートの頭を目掛けてモーニングスターを振り下ろす。ヘヴンズゲートは大きな羽で身を守ろうとするが、ウルトリキューロスの鉄槌によって吹き飛ばされ氷の羽毛が舞い上がり片翼はボロボロになって鱗は赤く染まってしまう。ウルトリキューロスは勢いをそのままに振り下ろされたモーニングスターは大地を割り土煙を上げて大きなクレーターを作っていった。エリア全体を巻き込む怒濤のような戦闘にアーク内のモーヴィスは目をギラつかせて賞賛する。
「ビッグ&パワフル!猛烈で強力な技を応酬しあう竜と巨人に目が離せません!」
巨人とは文字通り巨大な人型をしていて、かつては神々と争った末に敗北して地中深くの奈落に幽閉された神の成り損ないの種族であるが、神に対抗できる怪力と能力を有している位にずば抜けて優れた種族である。ウルトリキューロスはそんなタイタン族の長としてタルタロスを管理している猛者である。土埃を掃うウルトリキューロスはクレーターの中央に立ち、ヘヴンズゲートは盛り上がったクレーターの辺縁に止まって傷ついた翼を舐めながら相手に向き直る。
「流石はタルタロスの王たる『巨影大王』よ。我が剛なる竜の鱗をこうまでしてくれるとはな!」
ドラゴンとは、数々の伝説において登場する強靭な鱗や驚異的な膂力や高位の魔法を操ることから生物において最強といわれ、古今東西で様々な活躍と高い希少性から神と比肩する扱いを受けるほどだ。ヘヴンズゲートは竜帝として天空にてそういったドラゴンを統べる立場にありその実力は計り知れない。
「フンッ!下らぬ戦いをさっさと終わらせたいからの。地に堕ちよ!『天門の首魁』!」
ウルトリキューロスがヘヴンズゲートに向かってモーニングスターを突き付けて罵ると、ヘヴンズゲートはそれを嘲笑う。
「古い呼び名だ。今や我は天の番人にして神宝を守護する『竜帝』である。」
ヘヴンズゲートはその身を翻して燦然と輝く装身具を煌めかせる。そして、その中でも額に捲かれたフェロニエールに一際青い彩色を放つ宝石が瞬く。
「ウルトリキューロスよ、貴殿の宝は耳にしたことがある。“想像にて創造をする”『虚滅主の帯』・・・いや、貴殿ならば『虚滅主の指輪』というべきか?いずれにせよ貴殿には過ぎた宝物だ。我が頂くとしよう!」
そう言うと、ヘヴンズゲートは額の宝石に手を置いて呪文を唱える。
「『星涙の青玉』よ!我に力を与えん!雷と雹の化身を我に顕現せしめよ!」
『星涙の青玉』の輝きはヘヴンズゲートを包み、ヘヴンズゲートの体は大きく膨れ上がると、首元からは七つの首が蠢いて十本の角が並び、背中に氷柱が幾本も生え出て羽は3対に増えて尻尾は山を巻き込む程に伸び、その周りは電気を帯びて冷気が渦巻いている。
「さあ!早くもヘヴンズゲートが星涙の青玉を発動!電気と水の属性を併せた究極の力をその身に宿しました!ウルトリキューロス、やばいですよ!」
ヘヴンズゲートの変身を見たモーヴィスはアークで右腕を突き上げて声を上げる。無論バトルフィールドにその声は聞こえてなどいないが、ウルトリキューロスは即座に指輪に命じる。
「広大なる大地よ!儂を覆い尽くせ!岩盤なる武装鎧『巌太武』!」
すると、ウルトリキューロスの体にオリハルコンで固めた岩が張り付いてプレートアーマーを形成していき、ウルトリキューロスよりも一回り巨大なゴーレムに様変わりしていった。
「勇壮だな。だが、ウルトリキューロスよ。そんな図体では我ほど機敏に動けまい?」
ヘヴンズゲートは天高く飛び上がって雄叫びを上げて雲を呼び寄せる。
「大地を悉く叩き潰せ!天を塞ぐ旱『ヴリトラ』!」
空中に飛んだヘヴンズゲートは翼を大きく羽ばたかせると大地の水が干上がっていき、空には厚い雲が大きな雹を生成してウルトリキューロスを目掛けて降り注いだ。
「守れ!大いなる光輝を放つ盾『グレートアイアース』!」
ウルトリキューロスは右の拳を突き出して土塊の上に鉄、銅、鉛、錫、水銀、銀、金の7層にも覆った盾を右手に作りだして猛烈な雹の攻撃を防いだ。
「圧巻です!ヘヴンズゲートが天候を操り地面から水分を奪い、さらに山のような積乱雲で空を覆い尽くして大きな雹で大地を蹂躙していく!すかさずウルトリキューロスが物質を創り出す錬金術の至宝とされる虚滅主の帯を駆使して自身を囲むほどの盾を錬成してダメージを回避!まさに災害級の力比べだ!」
モーヴィスは興奮して腕を回しながら実況する中、ウルトリキューロスは左手に持っている鎖に繋がれたモーニングスターを振り回しヘヴンズゲートに向かって勢いよく投げつける。剛速球で迫るトゲトゲの鉄球をヘヴンズゲートは身を翻して素早く避けるが、それを見たウルトリキューロスはほくそ笑んだ。
「落ちよ。ドラゴン!派手にぶちかませ!炸裂の狩竜弾『タスラムジェット』!」
ド――――――――――ンッ‼
投擲されたモーニングスターは轟音とともに空中で爆発して大量のトゲがヘヴンズゲートに散弾銃のように降り注いだ。
「ぐおっ!叩き落とせ!凍れる鱗戒一掃『フロストスケールスピナー』!」
降り注ぐトゲの豪雨にヘヴンズゲートは堪らず回転を加えながら急降下し、背中の氷柱を飛ばして弾丸のような鉄棘を撃ち落としていく。
「なんと!ウルトリキューロスが投げたモーニングスターは爆弾に作り変えられて爆発し、ヘヴンズゲートに鋭い破片が飛びかかっていく!堅牢な竜鱗もこれにはきついか⁉」
モーヴィスはアークで驚きと称賛を交えて拍手する。どうにかトゲの雨を脱したヘヴンズゲートの7つの首が地上にいるウルトリキューロスを目掛けて滑空し、盛大に吼える。
「やってくれるなぁ!デカブツがよぉ!」
「テメエのハラワタ食い千切って、ハゲタカの餌にしてやるよ!」
「どんな声で泣くのか楽しみだ!」
「ギャアハハハハア‼」
無駄に頭が増えたせいか、けたたましく喚き散らすヘヴンズゲートの頭達はウルトリキューロスを見据えていた。
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