第2章ー2 選出

「よくぞ参られた!選ばれし戦士たちよ!」

 ベルベトラは転移した場所で目を開けると、半透明の球体の中心に浮かんでいることに気付く。転移魔法は転移する人や座標を正確に把握していなければ正しく発動できず魔術師でも高レベルでなければ扱えない難度の高い魔法である。ベルベトラは転移されたことに啞然としながら辺りを見回していると、上の方で拡声器から響くような声が聞こえてきた。

「これから人族、魔族、精霊族、神族などの方々からそれぞれが1対1で対戦していき、生き残った勝者1人を決めていただきます!」

 白いドームのような巨大な空間の中に、更に半透明の小さな球体が十個程浮遊しながら点在し、ドーム中央に羽ばたく蝶々のような羽と蠍のような節のある長い尻尾、蛇のように長く自在に動く四肢には鷹のような鉤爪をしており、胴体はまるで酒樽のようで顔は黒く山羊のようだが、耳まで裂けた口には笑みを浮かべ、真っ赤な目をギラギラにしている得体の知れない存在が声を上げる。小さな球体のそれぞれに召喚されたであろうモノがその中心で立ち尽くしているのがぼんやりと見える。

「何よ⁉どこなのここは?」

 ベルベトラがいる場所は球体の中心から動くことができず魔法も発動できない不思議な結界となっているようだ。そして、球体の外からの音は遮蔽物がないくらいに明瞭だが内側からの音には共鳴のような響き渡る感覚がない。他の球体に目をやると、大小様々な影が同じように球体中央で困惑しているようだった。ドーム中央で羽ばたいている得体の知れない存在は口を開く。

「申し遅れましたが、ワタクシメは進行役のモーヴィスと申します。以後お見知りおきを。」

 球体の中にいるのであろうモノ達は口々に何かを言っているが、その声が球体の外に届くことはない。その様子をケタケタ笑いながらモーヴィスは喋りだす。

「皆様方にはお互いに殺し合いをしていただき、生き残った勝者には栄えある未来を手にすることができます!己が種族の命運をかけて力を振るってくださることを期待します!それでは!この〈アーク〉によって世界から選出された強者達がこちらとなります!」

 モーヴィスがアークの底の方へ指差すと、平面がスクリーンのように映りだした。


 人族:『勇者』シングー・『姫騎士』ベルベット

 獣人族:『獣君主』レオニグラス

 巨人族:『巨影大王』ウルトリキューロス

 魔族:『魔王』ゼクスタザトス・『真祖』ルシブアン

 妖精族:『妖精女王』ネスピリタス

 海精族:『海皇』ハーフタマティーニ

 竜族:『竜帝』ヘヴンズゲート

 天使族:『戦天使』マリエル

 神族:『死霊長』デスリング・『超越者』エンド


 そこに映し出された十二名の名前や肩書きはすでに伝説として語られる錚々たるメンツが並びベルベトラもとい、ベルベットはその中に自身の名があることに肩身が狭い思いがして赤面する。

「皆様が戦っていただく場所は今この場ではなく、ランダムに様々な戦場へ転移します。お互いが不利になるようなことはありませんのでご安心ください。各々の種族におかれます勝者には敗者が保有するそれぞれのマジックアイテムのお宝を一品ずつと戦闘後に心身ともに回復する神の飲み物〈ネクタル〉を戦利品として受け取ることができ、種の保存が維持されるのです。それではお待ちかねの対戦カードの発表となります!」

 モーヴィスは手を掲げると小さな紙が浮かび上がり、それを読み上げる。

「第1回戦!人類最強という肩書ならまさしくこの称号!人間に仇なす数多の強敵を薙ぎ払ってきた神に愛されし強者!人族、『勇者』シングー!」

 まるで入場アナウンスのような紹介の後に球体の一つが輝きだしてその中にいる人物のシングーが姿を露わにしていき、勇者の言葉を聞いた他の球体にいるモノ達は色めき立つ。人類に仇なすモノが倒される相手である勇者からその刃が自身に振るわれることを他の種族は危険視しているためだ。当のシングーは長剣を携え外套を羽織って首には聖女から賜ったペンダントが光り、羽のついたサンダルを履いている。その表情は球体の中に召喚された現状を飲み込めずに何も分からないまま呆然としている。シングーは旅に出てから迷宮のダンジョンで試練を受けたり、雨のような雷霆の山を進んだり、牛にされたりしながらも仲間達や道中で出会った人々の手助けによって窮地を乗り越えていき、やっとのことで勇者のみが引き抜くことができる『永世久遠の剣』を『老仙樹』カクタスラベリーの神殿にて手に入れた。だがその瞬間に、このドーム状の空間へと転移されて今に到るのだ。

「対するは、名高きヴァンパイアの始祖にして真祖!悍ましい闇夜の住人を統べる高潔で残忍な夜の王!魔族、『真祖』ルシブアン!」

 次に紹介された球体の中には漆黒のマントの羽織った長身の紳士がいたが、その風貌は蒼白く、赤い瞳に、蝙蝠のような耳と翼、鋭く伸びた牙をのぞかせて妖しく笑う〈ヴァンパイア〉のルシブアンがゆったりと佇んでいる。

「戦場となるエリアでは皆様がいらっしゃる〈クレイドル〉と同じような結界を張っております。よってエリア外への散歩は叶わないため控えた方がよろしいでしょう。もし、戦闘を拒否すれば恐ろしいペナルティーが科せられるのでご注意ください。どちらかの勝敗が決まり次第それぞれのクレイドルへと戻ることになりますので、心ゆくまで殺しあってください。さて、二人の傑物が戦い合う戦場は何処か?ルーレット、スタート!」

 モーヴィスの掛け声とともにスクリーンに映し出された運命を決めるルーレットが廻り出した。

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