1章:12話「蒼穹の盾(アズール・シルト)」
歴史の深い重装小騎士団“
入団条件が団長からのオファーでしか入れないという厳しい条件があるにも関わらず、入団希望者が後を絶たないのは、彼女の実力と資金力ゆえだろう。
元々“
その精鋭部隊をそっくりそのまま独立させた為、新設団でありながら屈指の練度を誇るのだ。加えて、豪商の令嬢ということで資金も潤沢であるとなれば、人が集まるのも無理はない。
僕も、彼女の話は知っている。
一目見たことはあるが、青い鎧を身に付けたとても綺麗な人だということも、僕はよく覚えていた。
そんな彼女の
それは、この小騎士団の設立理由が、"団長シャルロッテが気に入った、可愛い女の子を囲う為に設立された"という事だ。それを証明するように、この小騎士団の団員はとても可愛く、また可愛い女の子しかオファーしないともされていた。もちろん、表向きは違う。
しかし、シャルロッテ・ライチは無類の可愛いもの好きで有名で、しょっちゅう可愛い女の子を見つけては口説き落としていたという話も、日陰者の僕の耳に入るくらいには言われていた事だった。
中には、特に団長がお気に入りになった者は団員にすら知らされず、“幻の団員“として、日々特別に可愛がられているという、明らかに眉唾であろう噂すらあった。
まあ、全てただの噂話だろう。きっと優秀な彼女を妬んだもの達の、やっかみや嫌がらせの類のものだ。
そう、僕は高を括っていたのだ⋯⋯。
「⋯⋯着いたぞ。皆、降りて整列してくれ」
外からエリザの声が聞こえ、馬車が停止する。
ようやく、ヒルダの拘束から解放された僕は、固まった体をほぐしながら馬車の外へと出た。
そこで、僕は目の前の光景を見て、その考えを改める事になったのだ。
そこには、整列した“
全員が、大楯や大槌、巨大なハンマーを片手で軽々と持っている。そして鎧は“濃い青を基調としていて、肩当てや腰当てには、その内側から太ももや二の腕を隠す刺繍入りのレースがついている。兜からは伝説上の戦乙女のように、大きく長い羽根の装飾が付いていた“。
そしてその全員が、まごう事なき美少女だったのだ。
「⋯⋯⋯⋯」
⋯⋯かわいい、と、思わず口に出しそうなった。
もちろん、僕の、⋯⋯彼女達?五人も、恐ろしく美しい。だが、
彼女達の可愛さ、美しさは、最早暴力に近い。圧倒的な美と魅力を、相手に叩きつけて押し潰してくるようなものだ。
それに対して、
僕とは違い、常に騎士学校の中心にいて、まわりを魅了していくであろう団員さん達を目にしながら、僕は口を固く結んだ。
背後に彼女達がいるこの状況で、この言葉を出すのは、“今すぐに僕を殺して下さい!出来るだけ苦しむ方法で!!“と言うのとそれほど変わらないからだ。
⋯⋯そんな事より、気になった事がある。団員さん達が身につけている鎧だ。そういえば、今更だが、エリザも似たような鎧だったよな⋯⋯?
「⋯⋯エリザお姉様? このご麗人は⋯⋯?」
「⋯⋯ああ、彼が――」
『幻の団員ですか?!』
言葉を遮られたエリザは、唖然としていた。僕もそうだ。ご麗人?幻の団員??
「やっぱり、そうですよね! 私、見たことないですもの!」
そう言って、
「あなたも、私たちと同じ団員だったんですね!」 「さすが、幻の団員!なんて可愛さ!私も欲しい!」 「すごい! やっぱりお姉様の見る目は間違いないわ!」 「なんて綺麗な瞳⋯⋯。吸い込まれてしまいそうですわ!」 「こんなに可愛ければ、お姉様も独り占めしたくなりますよ!!」 「お人形さんみたい! ⋯⋯持って帰りたい!」
僕は
確かに、騎士学校内を鎧で移動することは少なくない。僕も同じ鎧を着ていたが、確かに
僕はいつも人目を避けるようにはしていたが、それでも絶対に見つからない訳じゃない。誰かが見ていて、それで噂になってしまったのか。
団長の変な噂は僕のせいだったのか。申し訳ない事したな、と反省する。いや⋯⋯まさか、だからこの鎧を⋯⋯? と考えていると、エリザが助け舟を出してきた。
「⋯⋯待て! ⋯⋯よく、見ろ。⋯⋯こい、つは。⋯⋯女じゃ⋯⋯ない」
っ! ⋯⋯こ、こいつ、笑いを堪えてやがる⋯⋯!
「こいつは⋯⋯レオハルト・フォン・リヒトホーフェン。今回の合同任務の相手、小騎士団の団長だ!」
なおも、エリザは続ける。
「そして! ⋯⋯見ての通り⋯⋯こいつは⋯⋯男だ!!! ⋯⋯ぶふっ」
エリザは、ついに笑いを堪え切れなくなったのか、最後の最後で吹き出していた。⋯⋯こ、このやろう⋯⋯。
その話を聞いた彼女達は、時が止まったかのように静かになり、やがて、その時がゆっくり動き出すと⋯⋯。
「「「⋯⋯え、えええっっーーー!!!」」」
「男の子?!嘘でしょ、こんなに可愛いのに?」 「じゃあ、男の娘、ってこと?余計にいいじゃない!」 「ショタよ!国の宝だわ!」 「保護しましょう!私の家に!」 「団長が知ったら、どうなるのかしら?!」 「決まってるでしょ!お姉様が監禁なされるに決まってるわ!」
エリザは、僕の為に助け舟を出したわけではなく、単純に火に油を注いだのではないか? なんか、過激な言葉が聞こえてくるし⋯⋯。
そう思った僕だが、今度は僕の後ろの彼女達の事が気になり始めた。
だが、振り向く必要は全くない。僕は、彼女――ルナ、ノエル、シルフ、ヒルダ、クロラのことは、わかっているつもりだ。こういう時は、きっと⋯⋯。
――鬼の形相で、僕を睨みつけているに違いない。
それを証明するかのように、十の目線が僕の背中を突き刺している。目に包帯をしている彼女の視線ですら、この身に感じるほどだ。
相変わらず、僕が団員さん達にもみくちゃにされていると、突如。僕は空を飛んだ。
「⋯⋯随分と楽しそうね、貴方」
酷く冷たいヒルダの声。やばい。怖い。
「⋯⋯レオンは、私のものです。勝手に取らないで下さい」
同じような調子で、ルナは冷たく言い放つ。⋯⋯そういえば、馬車の中でも不機嫌そうだったな⋯⋯。
今度は団員さん達の方が、呆気に取られていた。が、次の瞬間、その好奇の対象が彼女達に変わったのだ。
「「「⋯⋯な、なんて麗しいお姉様達ですのー!!!」」」
黄色い歓声と共に、今度は五人の周りに集まる団員さん達。
「お名前を教えて頂いてもよろしいですか!?」 「肌も髪もすべすべ⋯⋯なんて、素敵!」 「何処から来られたのですか? まさか、天界!?!?」 「皆様、おむねが大きいですわー!!!」 「さ、触らせて頂いても?!?!」 「凛々しい、まるで女神のよう!!!」
各々褒め称え上げられる五人の彼女達。その表情は、満更でも無さそうだった。
「⋯⋯お前達、いい加減にしろー!!!」
状況が混沌とする中、エリザの怒声が響き渡るのであった⋯⋯。
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