1章:2話「花嫁“達“」
全員、凄まじい美貌だった。
一人目は、夜よりも黒い、漆黒の長い髪をハーフアップにした、髪と同じ色の瞳。黒い手袋、黒い大きなローブを羽織った、切れ長の瞳が剣士のような鋭さを放っている。
二人目は、膝まで届く美しい白金(プラチナブロンド)の長髪を靡かせる、空と同じ色の瞳を持ち、チュニックと革で作られた軽装を纏った大人びた、だけどどこか愛嬌のある雰囲気を漂わせていた。
三人目は、ピンクブロンドの髪をおさげにした女性。遊牧民の衣装のような刺繍が入った服を着ているが、なぜかその両目は包帯で隠されている。
四人目は、炎より赤い真紅の髪と瞳。肌が透けるような薄さのレースのドレスとロンググローブ、タイツを身につけた、その、とても目に毒な、妖艶な女性。
そして、最後の一人は、青みがかった黒髪の癖毛に、灰色の瞳を髪から覗かせている。黒いポンチョで体を覆い、“にちゃ“と不気味な、しかしどこか惹かれると笑みを浮かべていた。
全員が、芸術作品でも見たことが無い程の美しさだった。⋯⋯一人、おかしいかもしれないが。
不敬を承知でいえば、聖都でもこれ以上美しいものは無いだろう。それほどまでに彼女達は美しかった。僕の知る表現では、これ以上の言葉は出てこない。
あまりの美貌にたじろぎながら、僕は震えた声で質問する。
「⋯⋯貴女達が、僕を助けてくれたの?」
そう聞くと、桃色の髪の女性が答えた。
「⋯⋯はい、その通りです」
とても美しい声だ。癒されるような、ずっと聞いていたいような、心地の良い声。
――その声に、感極まったものが込められているのを、レオンは気づかなかった。
「⋯⋯ありがとう、貴女達のおかげで、僕は生き残ることができた。⋯⋯本当にありがとう」
心からの感謝を言葉にして伝えると、それを遮るように、桃色の髪の少女は続ける。
「私の名はシルフィード。シルフとお呼びください。そんなに感謝する必要はありません。私は、当然のことをしたまでですから」
シルフィードと名乗った彼女は、謙遜のように聞こえる話ぶりで続ける。
「私こそ、ありがとうございます。“また逢えて“とても嬉しく思います。“レオン様“」
そう話すシルフに、違和感を持った。その疑問を伝えようと口を開く瞬間、僕は急に衝撃を受け、倒れ込んでしまった。
「⋯⋯もう、いいよね? いいよね! やったー! “久しぶり“!!! レオン!!!」
周囲が騒めく。状況がわからない。なんか柔らかい。
声が上から聞こえる。そうか。プラチナブロンドの彼女に、抱きつかれ、押し倒されていたのか。だから、目の前が柔らかいのか。いや、待って!
「ちょちょちょ⋯⋯! ちょっと待って!!!」
僕はそう言って離れようとするも、彼女の抱き付きを引き剥がせない。力つよ!
「私、ノエル! もう離さないからね!レオン!」
「お⋯⋯お前! 何してる!!!」
ノエルと名乗った少女を、エリザが顔を真っ赤にしながら引き剥がす。しゅんとして、ぶー、と唇を尖らせるノエル。⋯⋯犬みたいだな。
「⋯⋯スケベ。そういった事は、もっと二人でいる時にするものです」
今度は凛とした声が聞こえる。漆黒の髪をした少女から放たれたものだった。⋯⋯少なくとも、二人でいる時ならいいわけでは無いと思う。
「⋯⋯まあ、いいでしょう。レオンの“伴侶“たるルナは、優しいので許してあげます」
ポケットの中に何かを入れながら、ルナと名乗った少女は続けて呟く。⋯⋯伴侶?伴侶って言った?
「⋯⋯ぐふふ、そうだねぇ〜、後でゆっくりと、クロラもいっしょに楽しみたいねぇ〜♡」
黒ポンチョの女性が続けて話す。クロラというのか。楽しむ?何を??
「あらあら、皆さんったら♡ ⋯⋯そうですねぇ〜、レオン様は私たちのことを知らないと思いますが、私たちは、よぉ〜く、あなたの事を知ってますよ♡」
「ちょ⋯⋯ちょっと待ってくれ!一体、何が、何だか⋯⋯」
僕が話しても、全く止まる様子なく、シルフは続ける。
「たとえば、そうですね⋯⋯。レオン様は、“胸の大きい人が好き“、とか♡ ⋯⋯ここにいる皆様も、大層、とても立派な"もの"をお持ちですし⋯⋯当たっていますでしょ?」
「はっ⋯⋯!?⋯⋯なっ、何を言い出すんだ、君は!!!」
叫ぶ僕を、赤髪赤目の少女が止める。
「⋯⋯この程度の事で、取り乱さないでくれるかしら?ヒルデガルダの⋯⋯未来の“旦那様"?」
人は、情報が追いつかないと気絶するのだ、と言う事を、僕は初めて知るのだった。
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