1章:1話「落ちこぼれの目覚め」
夢を見ていた。
この世のものとは思えない程、美しい氷の空間で、僕が一本の剣を引き抜く夢を。
引き抜いた瞬間、自分の周りの全てが砕けた気がしたのだ。まるで、止まっていた時間が動き出すように。
(ああ⋯⋯。いい夢だった。落ちこぼれの僕が、魔剣を引き抜くなんて)
夢にまで見た、まるで英雄譚の主人公になったかのような、最高の夢。これが現実であるなら、どれほど良かっただろう。
魔剣を使い、強力な力を持って、悪を打ち倒し、弱きを守る。様々な人から尊敬されて、目標にされるような、高潔で気高い“英雄“⋯⋯。
もちろん、現実はそうではない。落ちこぼれで、弱くて、惨めで、情けない自分。夢の中の全てを、持ち合わせない僕。
(⋯⋯⋯⋯! ⋯⋯オン⋯⋯!)
遠くから、声が聞こえる。黒と白しかない視界の中で、誰かの声が聞こえる。
頼むから、起こさないでくれ。⋯⋯この夢の中でなら、僕は英雄になれるんだ⋯⋯。
(⋯⋯⋯⋯レオン⋯⋯! ⋯⋯レオン!!!)
声がはっきりと聞こえてくる。白一色だった僕の視界が、急に色付き、燻んだ金色がはっきりと見えた。
「レオン!!! 頼むから、起きてくれ! レオン!!!」
「⋯⋯エリザ⋯⋯?」
今にも泣き出しそうな顔で、こちらを覗き込む女性。燻んだ金髪を後頭部で纏めており、意志の強そうな翡翠色の瞳は、濡れているかのように光を反射している。
「レオン⋯⋯! 良かった⋯⋯目が覚めて⋯⋯!」
そう話す女性は、エリザ。エリザベート・バルクホルン。僕の⋯⋯。騎士学校の、同期だ。
僕は意識がはっきりとしてきて、なんとなく察しがついた。包帯と薬、そして様々な薬草の匂いが混ざり合うこの部屋は、多分騎士学校の保健室なのだろう。わからないのは、なぜ僕がここにいるのか、だ。
そんな僕の様子を知ってか知らずか、エリザは続ける。
「本当に良かった。魔剣探索中に賊に襲撃されたと、お前の部下から聞いたよ。お前が一人で残った、ということもな」
「⋯⋯そうだ⋯⋯! 僕の部下達は⋯⋯!」
僕の言葉を遮り、エリザは続ける。
「⋯⋯全員無事だ。負傷者は一人もいない」
「⋯⋯⋯⋯それなら、よかった」
安堵した僕に、訝しげな視線を向けるエリザ。
「⋯⋯よくは、無いがな。⋯⋯お前、どうするつもりだったんだ?」
若干の怒気を含んだ声で、彼女は言う。まずい。話を変えなければ。
「⋯⋯そういえば、なぜ、僕はここに? エリザが助けてくれたのか?」
あからさまに話題を変えたからか、エリザは呆れながらも続ける。
「⋯⋯お前の部下が救援要請をしてきたので、私たちも向かった。だが、お前を助けたのは、私たちではないよ。⋯⋯ここまで連れて来た、と言う意味であれば、私達だがな」
疑問が浮かんだ。エリザ達が助けてくれたのでなければ、一体誰が?
その謎が顔に出ていたのか、エリザは部屋の端へ視線を向ける。
ベッドから少し起き上がり、エリザの視線の先へ目を向けると、そこには、
この世のものとは思えないほど整った――女神と見紛うほどの美貌を持った、五人の少女達が、並んで座っていた。
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