第15話 調査

俺は軽バンの運転席でハンドルを握りしめていた。


未だ入ったままの、東條が置いていったポケットの金が重くのしかかる。


「馬鹿正直に輸血を拒んで死ぬなんてな」


あの時のあいつのあの軽い口調。

グラスを置く手がわずかに震えていたこと。

背を向けた肩のかすかな震え。

すべてが俺の疑念を強めていた。


警察は疑ってないようだが、俺は目一杯疑っていた。

完全に怪しい。


アパートに戻ってインスタントコーヒーを淹れる。


パソコンを立ち上げ、ダークウェブ用ブラウザで裏世界のデータベースにアクセスする。


ターゲットは「東條開発」の経営状況と東條憲一の身の回り。


画面に浮かんだのは、真っ赤な数字だった。

東條の会社の深刻な経営危機。

銀行からの最終通告。


そして、妻・美津子に掛けられていた生命保険も見過ごせない情報だった。


死亡保険金 3億円。


妻の死後、会社の資金繰りが急に改善した形跡。


あまりにもタイミングが良すぎる。


借金が、保険金で一括返済されたのではないか。


すべてが繋がり始めていた。

東條は会社を救うために妻の死を利用したのかもしれない。


輸血拒否で亡くなったのではないのではないか。


奴は、なんらかの手段で妻を死へと導いた。

――奴の挙動不審と合わせれば、そう疑うのに十分な状況証拠だった。


俺はコーヒーカップを強く握った。


「あんた……妻を殺したのか?」


あかりが家出したと言うのもこれと無関係とは思えない。


東條が、妻を殺した真実を知ったためか。


俺は立ち上がった。

推測じゃなくたしかな証拠が必要だ。


習慣でタバコを探してポケットに手を触れた。

くそ、タバコはやめたんだった


スマホから、知り合いの清掃業者の連絡先を探す。

確か、あいつはあの病院にも入っていたはずだ。


「さて、久しぶりに実地調査と行くか」


胸の奥を突き動かしていたのはどす黒い怒りだった。

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