第14話 東條美津子の死の疑惑

地元警察署の裏、喫煙所。

夕方5時過ぎ、街灯が点き始めた頃。

矢島刑事は、もう定年間近。いつも笑ってるようなひょうひょうとした顔。

でも細い目は、相変わらず鋭い。


俺が若くやんちゃしてた頃に何度もお世話になった。

矢島は自分が煙草に火をつけながら、火をつけない俺を見て

「んん?」

と不思議そうな顔をした。


「お前、タバコやめたんか?」

俺は目いっぱい渋い顔で矢島刑事をにらみながら答えた。

「やめたっす……」

「ふ~ん」

矢島は一瞬、不思議そうな顔をしたがすぐにいつもの調子に戻った。


「で? 用件はなんだ?

 便利屋の分際で、刑事呼び出すなんざぁ、百年早いぞ」


俺は、なつかしい煙草の匂いを嗅ぎながら、切り出した。


「最近、仕事で東條開発の社長、東條憲一の娘を探してるっす。

 この人、奥さんの美津子さんを2年前に亡くしてるんですが、奥さんの死について何か不審な点とか、警察の方で掴んでませんか?」


矢島は煙草を一服して、首を傾げた。


「東條憲一ぃ? 東條美津子?

 ……覚えがねえな。

 捜査課でも生活安全課でも、聞いたことないぞ」


俺は矢島の表情をじっと見た。

演技じゃない。

本当に何も知らない。


……警察は何も疑ってないんだ。

……疑ってんのは俺だけか?もっと調べてみる必要があるな……。


俺は軽く頭を下げた。


「どうもっす」

立ち去ろうとすると、後ろから矢島の声が飛んだ。


「なあ。 

お前、また妙なことにくび突っ込むなよ。」


俺は振り返らず小さく手を上げただけだった。


煙草の匂いが背中にまとわりついた。

でも、もう不思議と吸う気にはならなかった。


矢島の忠告はほんとに親切心からだった。

昔と同じだ。

でももう俺は引き返せないところまで来ていた。

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