このクソったれな無法都市で今日も俺は生活する
飯楽堂
第1話
街の灯りが夜空に滲む頃、俺はいつものボロ部屋にいた。足元に散らばる吸い殻の山、ぼろぼろになったソファーの上に腰を下ろし、携帯で適当な情報を漁る。
ここは、法も秩序も形だけの無法都市――〈アーケイン〉だ。警察は腐ってるし、ギャングは街を牛耳る。金と暴力が支配するこの街で、俺は情報屋として生きている。
依頼内容はさまざまだ。ギャングの内部情報、消えた人間の行方、警察内部の不正調査…ただし、闇が深すぎる案件は深く突っ込まない。危険が見えすぎる奴は、俺の手に余る。情報は金だが、命は金じゃ買えない。
――今日はどんな依頼が舞い込むんだろうな。
携帯が震えた。画面には「ギャング:
「……おい、情報屋。例の件、どうなった?」
声のトーンは低く、鋭い。あまり良い予感はしない。
「まだだ、進展はない。」
「....進展がない? 前金は払ってやっただろ?」
「知ってる。だが、変なことに首突っ込むと面倒だからな」
このやり取りの後、俺は必要以上の質問はせずに、情報を探し始める。ギャングが相手だと、失敗すれば死に直結する。だから、軽く触れるだけで十分だ。
次の依頼は、路地裏で酒を煽るホームレスからだった。目が血走っていて、財布を握りしめたまま震えている。
「……あんた、情報屋だろ?」
「まあ、そうだ」
「なにか、いい酒が飲める店を知らないか」
ホームレスの依頼は、なぜかいつも簡単だ。しかし、街の暗部と接する時は違う。どんな小さな情報でも、波紋を呼ぶ。
「そんな物があるのは、“上”だけだろ....まあ、ベレン区の東にある酒屋は結構いいところだな」
「ありがてぇ、感謝するぜ」
そいつは、ちょっとの金を俺に渡したあと、走り去っていった。
情報を集めながら、俺は考える。この街では誰も信用できない。警察の奴も、裏で何かを企んでいる。ギャングも同じだ。人間関係が複雑すぎる。だから俺は、距離を置く。依頼が深すぎると、手を引く。
――それが、俺の生き残る術だ。
その日の昼間、警察関係者からも電話が入った。背筋が凍る名前ではないが、彼らもまた情報を求める。
「情報屋、ちょっと来てくれ」
「何の件だ?」
「内部監査の情報だ。あまり外には出せない」
「……簡単に言ってくれ」
複雑な事情は、俺にとってリスク以外の何物でもない。情報を掴んで、さっさと金に換える。それだけが俺のルールだ。
夜が深まるにつれて、街の騒音も薄れてくる。だが、この街は眠らない。闇は常に息をしている。
俺は、屋上に戻った。街全体が俺の目の前に広がる。ネオンの光が雨で濡れたアスファルトに反射して、まるで血のように赤い。
ふと、ギャングの依頼、ホームレスの依頼、警察の依頼――全部が頭の中で混ざる。面倒くさいが、俺にとっては日常の一部だ。情報屋として、今日も生き残る。
「……さて、次は誰だ?」
携帯が再び震える。名前は知らない。だが、依頼が来るということは、金になる。どれだけ危険だろうと、面倒だろうと、俺は動く。
この街では、動かない奴は死ぬ。情報屋としての俺の存在価値は、動き続けることだけだ。
ネオンの光に照らされた路地を歩く。雨の匂い、古びたコンクリートの湿った匂い、遠くで鳴るサイレン――すべてがこの街の現実だ。
「....
路地で偶然出会った痩せ細ったホームレスが呟く。苦笑いしながら俺は頷き、多少の金を渡す。
「ッ!...ありがとう、なんか聞きたい情報がある時は全面的に協力するぜ!」
そのまま、ホームレスは走り去っていった。
「当然だ」
ホームレスってのは、あまり侮れない、ホームレス同士の謎の結束みたいなのがあるからな、だから恩を売って、情報や噂話を探すときによく情報提供者になってくれたりする。
誰も信用しない街で、俺は信用するのは自分だけ。依頼人は多彩だが、深入りはしない。ギャング、警察、ホームレス――誰もが生きるために必死だ。俺も同じだ。
空を見上げると、星は見えない。街の灯りがすべてを覆い隠している。闇が深すぎて、俺は笑うしかない。
――それでも、俺はこの街で息をしている。情報屋として、今日も生き延びている。
雨が小降りになった路地で、俺は背中のバッグを確認する。依頼で手に入れた情報の束、金、そして少しの小型改造銃。これだけあれば、明日も生きられる。
歩きながら、俺は考える。明日も依頼は舞い込むだろう。新たな情報、新たな危険。だが、今日はまだ終わらない。
―――今日も、このクソったれな無法都市で、俺は生活する。
このクソったれな無法都市で今日も俺は生活する 飯楽堂 @dA__Ab
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