第四話「初陣、裁きの一閃」

朝の空気は澄んでいて、どこか張りつめていた。


アルマはギルドの依頼掲示板の前に立ち、一枚の紙を見つめている。


――《討伐依頼:ゴブリン》

――報酬:中

――備考:複数出現あり


「……これにしよう」


初めて、明確に“お金を稼ぐため”の依頼。

剣を握る理由が、少しだけ増えた気がした。


装備を整え、深呼吸。

アルマは一人で森へと向かった。


ゴブリンは、想像よりもすぐに現れた。


背の低い人型の魔物。

汚れた布切れのような服をまとい、手には石斧。


「……三体」


動きは荒く、攻撃は単純。

だが、数で押してくるのが厄介な相手だ。


一体が甲高い声を上げると、残りも一斉に駆け出してくる。


「来た……!」


アルマは一歩下がり、剣を構えた。


斧が振り下ろされる。

大振りで、隙だらけ。


――見える。


身体が、自然と動いた。


一体目の攻撃をかわし、剣で腕を斬る。

悲鳴と共に、ゴブリンが倒れる。


だが、すぐ左右から次の攻撃。


「……ジャッジ!」


紋章が熱を帯びる。


石斧が振り抜かれる、その“直前”。


キン、と澄んだ音。


アルマの剣が、相手の斧を弾き、同時に閃光のような一撃が走る。

異次元とも言える速さの斬撃が、ゴブリンの体勢を完全に崩した。


一瞬の間。


次の瞬間には、二体目も地面に伏していた。


「……あと一体」


最後のゴブリンは、仲間が倒されたことに気づき、後ずさる。

だが、逃がすつもりはなかった。


踏み込む。

迷いはない。


剣を一閃。


それだけで、戦いは終わった。


***


静寂が戻る森の中。


アルマは剣を下ろし、ゆっくりと息を吐いた。


「……終わった」


驚くほど、あっけなかった。

数日前なら、確実に苦戦していた相手。


――でも今は違う。


練習した時間。

ミカゲに教わった基礎。

そして、自分で生み出したスキル。


それらが、確かに力になっている。


ゴブリンの討伐証を回収し、アルマは森を後にした。


ギルドで報酬を受け取る。


袋の中で鳴る、硬貨の音。


「……これで、ちゃんと稼げた」


初めての、自分の力だけで得たお金。

それは、想像以上に重く、嬉しかった。


ギルドを出ると、夕日が街を照らしていた。


「また……頑張ろう」


今日よりも、明日。

一人で立てる剣士になるために。


アルマは剣を背負い、まっすぐ前を見て歩き出す。


その背中はもう、少しだけ――

冒険者らしくなっていた。

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