第3話 1人の犠牲者、1人の魔族

「おーいユキラ、起きろよー」

 朝。

 メガロスの男子寮で、コールという生徒がユキラという生徒の部屋のドアをノックしていた。

「おーい、ユキラー?」

 コールが何かいやな雰囲気を察しとる。

「血……?」


 身体能強化魔法


 ドンッ!!


 コールがユキラの部屋のドアを思い切り蹴飛ばした。

 すると、ドアはあっけなく蹴り飛ばされる。

「ユキラァァァァアア!!!」

 コールが怒りに身を任せて叫ぶ。

 その目に映ったのは、首を落とされ、壁に磔にされたユキラの姿だった。

「おいおい、朝から……」

 そこに、偶然居合わせたアリアが駆け寄ってくる。

そして、部屋を覗いた。

「うーん、なるほど。そういう感じね」

 ユキラの死体を眺め、アリアが呟いた。

「ユキラ!ユキラアアアア!!!」

 コールがユキラの頭を抱え、泣き叫ぶ。

「かなり強いな」

 ユキラは首を切られ、わざわざ壁に杭を打って磔にされている。

 それにはかなりの労力が必要だったはずだろう。

「……俺が朝来た時には、こうなってたんです」

 コールが涙でぐちゃぐちゃになった顔のまま喋る。

「……知ってるんすよ!これ、魔族の仕業っすよね!!知ってるんすよ!!知ってるんすよ!!!」

 コールが壁を思いっきり殴りつけた。

 隣の部屋まで響くようなその衝撃が部屋中に伝わる。

「壁には当然防御魔法がかかっている。わざわざそれを貫通させて杭を打つ必要性は……“煽り”か」

 アリアがコールをちらっと見た。

 コールの顔は怒りも悲しみも苦痛もすべての感情を凝縮したような顔つきで、床に座り込み、定期的に壁を殴っている。

「なにがあった!?」

 そこに、別の教師が現れた。

 教師の名前はパラード。

「アリア先生!?一体何が……!?」

 パラードがユキラが磔にされた壁を見て絶句する。

「これは……ひどい……」

「パラード先生。ほかの教師を呼んできてもらってもいいっすか?」

 アリアが壁の死体を眺めながら言う。

「わ、分かった!」

 パラードがダッシュで校長室のほうへ向かった。

(死体は首を切られて壁に磔にされてる。まぁ順番的には首を切られてから壁に磔にされたんだろうな。傷口は……特に時間差があるようには見えない。防御魔法がかけられているのにすぐに壁に杭を打ち付けることができるほどの魔族か。)

(部屋は特に荒れていない。揉めることなく一瞬で首を切られたな。ドアは……コールが開けるときに吹き飛ばされたのか。角部屋で、隣の部屋はコールだけ。となると犯人に一番近いのはコール……)

(……って、普通は思うよな。)

(多分この事件は、コールを犯人に見せかけようとしている。)

(そのためにわざわざ油断させた隙を突いたように見せる一撃。わざわざコール”だけ”を犯人じゃないように見せるための”煽り”の磔。)

(あまりにもコールが黒すぎる。となると逆に白い可能性が高いな。だが……なぜ殺した?魔族が一人俺に見つかって焦ったか?いや、それにしては随分と急ぎすぎてるような……)

「何があったんですか?」

 アリアが考え込んでいると、そこに教師が全員やってきた。

「これは……」

「おいおい、まじかよ」

「……」

 教師の誰もが動揺を隠せていない。

 ユキラは成績が6位。戦闘もかなりできるほうで、簡単に殺されるような男じゃない。

 その時、コールが立った。

「先生……アリア先生」

 コールが声を絞り出す。

「俺許せないです」

「俺、許せないです!!!!」

 コールが叫んだ。

「絶対ユキラを殺したやつを殺す!お願いです先生!俺に協力してください!!ユキラを殺した犯人を!!殺す手伝いを!!」

「あぁそうだな!俺もユキラを殺した犯人を許せないよ!」

 アリアが芝居をしているかのようなわざとらしさで大声を出した。

「なぁ!犯人のコール!」

「……は?」

 コールがあんぐり口を開ける。

[どうしたんだ犯人のコール。そんなにおかしいことを言われたかな?」

「は?いや、なんで、俺……」

 コールは見るからに動揺していた。

「だって、君以外ありえないじゃないか」

アリアが死体をいろいろな角度から眺めるように回る。

「磔も、油断させた隙を突いたのも、”自分を黒っぽい白”にしすぎるのに必死で、逆に黒くなった」

「犯人はお前だ、コール」

「は……?」

 コールが泣くのをやめた。

「あのさぁ、まず最初に」

「お前、ドア蹴飛ばして破れるぐらい強いの?」

「あ……」

 核心を突かれ、コールが思わず声を漏らす。

「第一発見者アピールがしたくて俺が近い時を狙ってやったんだろうけど、音は一個しか聞こえなかった。たった一回の蹴りで防御魔法の施されたドアを家破れるぐらいお前は強いのか?」

「……」

「それだけじゃない。壁を殴っただけで振動が隣の部屋に伝わるような建物なのに、杭が打たれる音が隣の部屋であるお前の部屋に聞こえないのはおかしい。隣の隣ならギリギリ聞こえない可能性はあるけどね。お前には確実に杭を打つ音が聞こえたはずだ。深夜だろうが早朝だろうが、優秀なメガロスの生徒なら音で起きれる」

「…………」

「それだけじゃない。ちょうど先日魔族が一人摘発されてある程度の緊張状態があるはずなのに魔族の可能性がある16人の他人に成績優秀なユキラが隙を見せるようには思えないのもあるね。相当仲が良くて、”今までに殺されてもおかしくない”と思えるような相手ならともかく」

「…………」

「で、どうなんだ?コール」

「……バレちゃった♡」

 コールがにっこりと笑った。

 その顔には、涙の跡以外に何の感情も残っていない。

「俺は今から自殺する。教師5人には勝てねぇからな。最後になんか聞いておきたいことはあるか?」

 コールが人差し指を自分の頭に向ける。

「何が目的だ」

「さぁね」


 ボッ


 コールの頭が燃えた。

「…………」

 その様子をただ静観するアリア。

 魔族の真の目的は何なのか。

 それがアリアにはまだ分からない。



その夜。

アリアの部屋の前に一通の手紙が置かれた。

「こんにちはアリア先生。私は一人の生徒です。

女子寮には気を付けてくださいね」

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