第2話 1人の被疑者

 コンコン


 アリアの部屋のドアがノックされた。

「ぁい。どうぞー」

 アリアは椅子に座りながら気だるげに返事をする。

「失礼します」

「お、校長先生。どうしたっすか?」

 まだ机と椅子とベッド以外に何もないアリアの部屋に校長が足を踏み入れる。

「ドン……貴方が魔族と指摘した生徒が自害をしました」

「あぁ、やっぱり……」

 アリアが少し残念そうな声を出す。

「それにしても、素晴らしい成果ですね。入学初日で魔族を1人発見するなんて。私は魔族殺しを少し軽視していたのかもしれません」

「ただ力が強いだけじゃ教師はやってけないっすからねぇ」

「えぇまぁ、そうですね。そして私からは、そんな貴方にお願いがあります」

 校長は魔法で異空間から紙を一枚取り出す。

「この生徒のことについてです」

 校長がアリアに紙を渡した。

 その紙には、一人の生徒の詳細な個人情報が書かれている。

「ふぅん、成績が上から30番目のクララちゃんね」

「常に挙動不審で生徒も教師も誰とも接点を持たず、練習でも試験でも手を抜いている……あぁ、その上平民出身なのね。貴族じゃないなら出自も実質不明みたいなもんか」

 アリアが一部抜粋して読み上げる。

「なるほど、この生徒が怪しいってわけね」

「話が早くて助かります」

「なるほどなるほど……それじゃ、行ってきます」

 アリアは席を立った。

「え?」

 校長が困惑した声を出す。

「まずは接触しないと始まんないっすからねー。今生徒たちはどこに居るんすか?」

「確かに、それもそうですね。大体の生徒は今頃食堂に集まっていると思いますよ」

「そうっすかー」

 アリアは部屋を出て、食堂とは別の方向に歩き始める。

「えっと……」

 校長が気まずそうな声を出す。

 しかし、アリアはそれを無視して歩き続けるのであった。







 女子寮の裏。

 そこでクララは花壇に咲く花の世話をしていた。

「ふんふん~お花さん~お花さん~」

 のんきに鼻歌を歌いながら花に水をやったり魔法をかけたりするクララ。

 その背後に、一人の男が立つ。

「よぉ、やっと見つけたぜ」

「ひぃっ!!」

 クララがおびえた声を上げ、しりもちをつく。

「ななな、なんでこの場所が分かったんですか!」

クララがびっくりした混乱と恐怖に揺れながら聞く。

「この学園は1日1回の授業時間以外は基本自由。そんで、食堂に人が集まるんだったら食堂から遠い場所に行くだろうと踏んだんだが……学園が広すぎて結構時間がかかっちまった」

「し、しらみつぶし探して回ったんですか?」

「ん。まぁな」

「ひ、ひぃ……」

 今度は少し引き気味のクララ。

「ま、そんなことはどうでもいいんだ。お前、何してんの?」

「……そんな風に寄り添っても、授業には出ませんよ」

 クララが口をとがらせる。

「…………あぁ、そっか。そういえば授業にも出席してないんだったな」

 アリアが思い出したように言う。

「別にどうでもいいんだよ、授業とかは。この学園自体みんな自習で成長してってるしな。国から教育させてくれっていう体制だから学費とかもねぇから親に申し訳ねぇとかないだろうし。授業なんてどうでもいいと思うんだったら出なくていい」

 アリアからすればどうでもいい話なのだろう。早口で説明だけする。

「俺は本当にお前が何してたのか知りたいだけ」

 その発言を聞いても、クララは訝しんだ顔のままだ。

「えっと……お花の世話を、していたんです」

「へぇ、花……詳しくないけど、これはどういう花が咲くの?」

 その質問をされ、クララが若干表情を明るくした。

「……えっと、赤くて大きいお花が咲くんですよ。でも、その花太陽が一番上にある20分しか咲かなくて。でもでも、20分しか咲かないのがもったいないくらい綺麗で……あっ!このお花、太陽に向かって咲くんです。だからタイヨウソウっていう名前で……あ、もうそろそろ咲くと思います」

クララのテンションがだんだんヒートアップしていく。

「ふぅん……お前、友達ほしいだろ?」

 アリアに言われた瞬間、クララは顔を真っ赤にした。

「は、はぁ!?別に!そんなことないですけど!?わ、私は……」

「反応が図星すぎんだろ……あのな、話すことが好きな奴っていうのは大体友達が欲しいんだよ。好きなこと共有したいから」

「べべべべ!べつに!友達なんて!要りませんし!」

「ふぅん。じゃあお前、なんで学園通ってんの?」

「そ、それは……」

 クララが口ごもる。

「成績に興味がないってことは将来金稼ぎたかったり名声を手に入れたかったりして学園に通ってるわけじゃないだろ?ってなると、わざわざ学園に通う理由なんて友達が欲しいから以外考えらんねぇ」

「うっ……」

「平民出身だし、他の学園に通えなかったんだろ?学費高すぎて。でも、お前は友達が作りたくてこの学園に来た。違うか?」

「…………そうです」

「やっぱりな」

 アリアはそうだよなぁとまた小さくつぶやき、

「じゃ、それだけ。じゃあな」

 と言ってその場を後にした。

「え?な、何かないんですか!」

 クララがアリアの背中に語り掛ける。

「ん?まぁーそうだな……自分から話しかけねぇと友達は出来ねぇぞ」

「え、えぇ……」

 クララは残念そうにアリアの背中を眺めることしかできなかった。





 あれはちげぇな。

 平民出身に挙動が不審……まぁ警戒するには十分っちゃ十分だが……。

「行動に意味がねぇんだよな」

 わざわざ魔族として学園に潜入したのに後々のコネを作らず、授業に出て人間の技術を奪おうともせず、将来良い地位を手に入れようとするわけでもない。

 魔族としてあまりにも不自然すぎる。

「クララは白だな」

 あと28人。

 フィーロを殺したやつを絶対見つけ出してやる。

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