第七章 モンスター☆トリオ、武道館に立つ

「本当にここか?」


ドラキュラが震える手で地図を広げます。


目の前にあるのは、荘厳な日本武道館ではなく、その裏手にある小さな公民館、その名も「武道・館(たけみち・かん)」です。


「旦那、名前は似てますけど、ここ近所のおじいちゃんたちが将棋打つ場所っすよ」


フランケンが寂しげに、首のボルトから微かな冷気を漏らします。


「いいじゃねえか。今日の俺たちのファンは、あそこにいる『ひまわり幼稚園』のちびっ子たちだ」


狼男が、自慢の毛並みをキティちゃんのブラシで整えながら言いました。


「よし、行くぞ。誰よりも優しく驚かせるのが、今の俺たちのモンスター道だ」


そして、ステージ開幕です。

幕が開くと、そこにはモンスター☆トリオの雄姿がありました。

ドラキュラはマイクの代わりにミルクティーのカップを持ち、華麗なターンを決めます。


「さあ、おいしそうな血液型の良い子のみんな、お待たせ」


「旦那、それ完全にアウトっす!」


フランケンは歩く天然クーラーとして、雪は降りませんが、客席の隅々まで心地よいヒンヤリ風を届けます。


「みんな、風邪ひかない程度に涼んでくれっす」


そして狼男は、満月のプロジェクターが映し出されると同時に、時給1.5倍のアルバイトで鍛えた狼体験コースを解禁しました。


「ガオー。 怖くないぞ、背中に乗りたい奴は並べ」


子供たちの泣き声は、いつしか歓声に変わっていました。


「ケンちゃん、もっと冷たくして」


「ドラキュラおじさん、手品見せて」


かつては恐れられたモンスターたちが、今では誰よりもみんなに笑顔を届けています。


イベント終了後、三人は夕焼け空を見上げました。


「なぁ旦那。武道館じゃなかったけど、これって最高の結果じゃないっすか?」


「ふん、まあな。明日は献血センターの早番だ。早く帰ってミルクティー飲んで寝るぞ」


世知辛い人間社会で、彼らは今日も懸命に生きています。

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2025年12月26日 06:00

モンスターがソリに乗って、街にやってきた ヒラク @Hiraku-

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