第3話 駅員と僕

 次の日、僕は部活を終えて友達と帰る。

 が、友達が乗る電車は学校の最寄り駅から見て反対方向のため、既に電車に乗り込んだ僕は一人だ。


 今日は部活があったから、当然都会の駅には赴かないのだが、なんだか家に帰りたくなくて学校と僕の家の最寄り駅の間にある少しだけ大きめの駅で黄昏れることにした。


 秋が深まり最近は陽が短くなってきて、部活から帰る時間帯は丁度夕陽が見られる時間帯だ。

 この駅は高台にあり、その上西側が海である。沈んでいく夕陽を見るのにベストコンディションだ。


 普段はこんなに景色を見ることなんてないのだが、今日僕はどうしたのだろう?

 特に何か悪いことが起きたわけでもないのに、心落ち着かせたい。そんな気分だ。


 構内の小窓から、ちょうど夕陽が見える。平日だというのに僕と同じように夕陽を見に来た人は多いらしく、中にはデジタルカメラと三脚という重装備で写真を撮ろうとしている人もいる。


 窓の向こうには少しだけ住宅街があって、すぐそこには工場、その奥にはどこまでも広がる海がある。

 こういう雄大な景色を見ると、本当に自分って小せぇんだなとか病んだことを考えそうになる。


 既に太陽は海の水平線に触れていて、だるまのような形になっている。

 こういうのには名前がついているのかなと思い『水平線に太陽が触れる』と検索にかけてみると、太陽が沈む瞬間についてが出てくる。


 雲がないと、水平線に太陽が沈む瞬間にグリーンフラッシュという緑色の光が見えるらしい。

 だが今日は生憎雲がある。見るのは諦めよう。


 普段は見られない綺麗な景色が見られたのだから、これで終わりにしよう。

 そう思って僕は振り返ってまた駅のホームへと歩き始めた。


 歩き始めるはずだった。


 でも、僕の数メートル先で僕を見つめて足を止めた人がいた。

 心臓がどくんと鳴った。


 駅員さんだった。


 知らない人と目が合うのは、記憶がある限り……初めてだった。


 ずっと、違和感があったんだ。ペンで書くと紙が人並み以上に凹む理由。僕が普通に歩けない理由。


 駅員さんは僕のことが見えているのか見えていないのか、眉根を寄せて僕を凝視する。

 怖くて後ろ手に触った手すりから、温度が伝わらない。


 ——何秒経っただろう。いつの間にか僕から視線は逸らされていた。その分、彼が無線に向けて発したこんな言葉が聞こえた。


「……今の、見えました?」


 彼はキッと前を見据えながら僕のもとを去っていった。




 さて、無線の向こうの人は何と答えただろう?

 駅の防犯カメラに、僕の姿は映っていたのだろうか。


 それとも、映っていなかった?


 分からなくても、僕は書いた。

 そしてこれからも、『未知』の存在を書き続けるだろう。


 でも。




『こわい』

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人間観測 こよい はるか @PLEC所属 @attihotti

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