第2話 老夫婦
今日も僕は都会の駅に出た。
今日は学校でテスト返しがあったのだが、学年上位五パーセントに入ることができた。帰りにコンビニでお菓子でも買おうと思う。
久しぶりに貰った良い成績表を入れていると、なんだかいつもより少しだけ通学用のリュックが軽くなった気がする。
定位置に身を預け、今日も人通りに目を通わす。
すぐに目についたのは、笑みを浮かべて歩く老夫婦。
お爺さんの右手がお婆さんの左手を、優しく包んでいる。
二人とも髪の毛が真っ白で、足取りは穏やかだ。ゆっくりと歩を進めていく彼らのことを見ていると、なんだか外見などはどうでも良くなった。今日観察するのは彼らの過ごし方にしよう。
お爺さんの方がお婆さんより十センチほど身長が高く、歩幅も大きい。周りの若者たちに比べて遅いお婆さんの歩くペースに、全く違和感なく合わせている。
僕も彼みたいになりたくて、あの速さに合わせてみる。
でもやっぱり、僕には歩くのが向いていないのだろうか?
規則正しいリズムで一歩を踏み出せないし、……足音もそんなにしてない気がする。
そのうえさっきまで遠く離れていた老夫婦を、僕の速い歩き方が追い越しそうになって、慌てて止まる。
何かが、違うような気がする。
少し時間が経ってから、できるだけ歩幅を縮めて歩く。傍から見たらぎこちなさすぎる動きだ。なんでこうなってしまうのだろう。
二人はそのまま、電車に乗るためにホームへと階段を下りていく。手すりを持つお婆さんの背中を、さり気なくお爺さんが支えている。
その仕草が自然すぎて、何故か胸がざわついた。
この感情の名前を、まだ僕は知らない。
ちょうど僕の家がある方向の電車に乗るようで、僕もそれについていった。
……ストーカー、なんて言わないでくれ。
老夫婦が乗ったものと同じ両の端の方に僕は立つ。ここからだと、老夫婦のいる奥の方がよく見える。
流石にずっと見つめているわけにはいかないのでスマホをいじったり成績を見てにやにやしたりするのだが。
SNSの通知を一通り確認し終えると、僕は顔を上げた。
視線の先では、老夫婦が学生二人組に優先席を譲られようとしていた。
「ここ、どうぞ」
仲が良さそうな学生たちが同じタイミングで立ち、席を譲ろうとする。
それに対して老夫婦は、
「いえ、大丈夫ですよ」
「駅もすぐですので」
凛とした笑顔で答えていた。
その姿に何故か胸を打たれた。
そっか、人間っていつまで経っても変わらないんだな、と思った。
僕も人間なのに。
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