第2話 奈落の底で、真実の輝きに出会う
守護者の死骸を背に、俺は自分の掌を見つめた。力が、溢れている。今まで「できない」と思っていたことが、呼吸をするよりも簡単に理解できる。
あいつらの技は、ただ才能に任せて振り回しているだけのガラクタだった。俺の【
「さて……まずはここを出るか」
俺はマジックバッグから、一本の折れた練習用の木剣を取り出した。これに『神聖魔術』と『深淵魔術』を、独自の理論で混合した魔力を纏わせる。
「【神意模倣】――空間転移(極)」
本来、数人がかりで儀式を行わなければならない転移魔法。それを一人で、しかも座標指定を完璧に行って発動させる。
視界が揺らぎ、次の瞬間、俺はダンジョンの外層――中層付近の広場に出ていた。そこで俺が見たのは、血なまぐさい光景だった。
「ひっ、あ、あああああ!」
「姫様をお守りしろ!ここは我らが食い止める!」
数人の騎士たちが、血を流して倒れている。中心にいるのは、白銀の髪をなびかせた絶世の美女。この国の第一王女、シルビア・ローゼライトだ。彼女たちを囲んでいるのは、ダンジョンの深層から溢れ出したと思わしき、無数の『
「無駄よ……。私を置いて逃げなさい。私の魔力は、もう……」
シルビア王女が膝をつく。暗黒竜の一体が、その鋭い爪を彼女へ振り下ろそうとした。
「【神意模倣】――『
俺は王女の前に割り込み、指先一つで空気を弾いた。聖女ルナが使っていた防御魔法。それを百倍に高めた不可視の障壁が、暗黒竜の爪を粉砕し、その衝撃をそのまま竜に跳ね返した。
ギャァァァン! という悲鳴と共に、巨大な竜が吹き飛ぶ。
「……え?」
シルビア王女が目を見開く。現れたのは、ボロボロの服を着た、
「一人でここに来たのか?危ないじゃないか」
「あ、あなた、は……?騎士でも、魔法師でもない……その格好は」
「ただの通りすがりの荷物持ちだよ。ちょっと、忘れ物を届けにいくついでさ」
俺は周囲を囲む十数体の暗黒竜を見渡す。本来なら一国が滅びかねない戦力。だが今の俺には、ただの止まっている標的にしか見えない。
「さて、王女様。少し眩しいから、目を閉じていた方がいい」
俺は木剣を構えた。魔導師ゼクスの広域殲滅魔法。それを「誇張」し、さらに「洗練」させる。
「【神意模倣】――『
木剣の先から放たれたのは、細い一筋の光。それが竜の群れの中央で弾けた瞬間、夜を昼に変えるほどの輝きが辺りを包み込み――。轟音すら置き去りにして、すべての暗黒竜を塵へと変えた。
後に残ったのは、クレーターと化した地面と、呆然と立ち尽くす王女一行だけ。
「……すご、い……。魔法の構築が、あまりに美しすぎる……」
王女が震える声で呟いた。彼女は魔法学の天才としても知られている。その彼女が、俺の「ものまね」に魅了されていた。
「怪我はないか?王女様」
「はい……ありがとうございます、名もなき英雄様。あなたは、一体……」
「アレンだ。ただのアレン。……さあ、地上まで送るよ。俺も、あいつらに挨拶しに行かなきゃならないからな」
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