7.黒色の植物人間



「な、なんだこれ」


救護室の扉を開けた僕は、目に飛び込んできた植物の塊を見て目を疑った。

植物の塊…いや、正確には植物に覆われた「何か」と言えば正しいだろうか。


「黒い植物?んなの存在するのか…。まるで枯れたあとの蔦のような。茨のような…。でもそんなものをベッドに置いておく必要性はないし…」


僕は恐る恐るベッドに近付く。

緑の香りに混じって、どこか鼻を突くような刺激臭もする。


「この臭い…。どこかで嗅いだことがあるような気がする。どこだっけ」


脳内で記憶を手繰り寄せながら、そっとその蔦に手を伸ばした。

黒い蔦は一瞬でボロボロと零れ落ちる。

そして崩れた蔦は、まるで鱗粉のように部屋内にまき散らされたのだった。


「ごほっ、ごほっ!げほっ、げほっ!」


まるで喉をぎゅっと締め付けられたかのように息ができない。

僕は這いずるようにその場を離れ、窓を全開にしたのだった。

窓からキラキラと輝く粉がパラパラと外に向かって解き放たれていく。


「な、なんなんだ!?こ、これ普通の蔦じゃない」


僕は涙目になりながらも、植物の塊を睨みつけた。

窓を開けた分だけ呼吸も楽になったが、それでもまだ息苦しさは残っていた。


「大変だ、大変だ。これは大変なことになった」


あまりの衝撃にに語彙力もなくなってしまう。

僕は慌てて立ち上がろうとした。

しかし足はその場でもつれ、素直に立ち上がってくれなかった。


僕の身体は植物の塊に向かって、まっすぐに倒れこんでいく。


「う、うわあああ!!」




メキメキ。




その効果音が正しいのか、僕にもよく分からない。

だが僕は確かに、その直後、激しく飛び散る粉を目にした。

そしてそれと同時に、僕は再び激しく咳き込む。



「くっ、苦しい!げほっ、げほげほ!がっ!」



僕の意識は暗闇へと沈んで行った。









それからどのくらいの時間が過ぎたのだろうか。

僕は冷たく薄暗い部屋で目を覚ました。

あたりは怖いくらいに静かで、僕は自分が一瞬どこにいるか分からなくなる。


「ここは…。し、城で。蔦で。そして倒れて咳き込んで…」


僕は酷く痛む頭を押さえながら、必死に状況を整理した。


「そ、そうだ!あ、あの蔦は!?さ、さっきは僕が触れたら簡単に壊れて…!」


慌ててベッドの方に視線を移す。

しかし僕はそちらを見たことを激しく後悔する。


「うっ、うわああ!ひ、人!?し、しかもな、内臓!」


先程まで植物の塊があった場所。

そこにはミイラのようになった人間が横たわっていた。

その腹は激しくぶち抜かれ、植物の根っこと思わしきものがちらりと覗いている。


「おえっ、おえええ!」


あまりにも非日常的な現実に、僕はその場に嘔吐した。

落ち着こうとは思っても、身体がそれを拒否するようだった。


「な、なんで人間の腹から植物が…。いや、ちょっと待てよ。このミイラ、身体に斑点がある。し、しかもかなりや、痩せている。ミ、ミイラだから当然なのかもしれないけど…」


僕の脳裏に浮かぶのは、先程解剖した猫の姿。

あの猫とひどく症状が似ていると思ったのだ。


「ま、まさか!」


僕は手袋をつけるのも忘れ、素手のままミイラの内臓を漁った。

すると。


「あ、あった…」


僕の手が探り当てたもの。

それはあの「黒い種」だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

出来損ない治癒師と謎の悪術師 ずー @azaz8899

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画