6.いざ王城へ

「あなた…ボレアスは魔法騎士ということなのか?」

「え?ああ、そうそう。ま、新人だけどな」



王城の門前。

再びそこに立った僕は、黄金の門を見ながらボソッとそう呟いた。

先程と同じ門だが、高さが低くなったような気がするのは気のせいだろうか。



「僕はボレアスを心から尊敬するよ。きっと僕じゃあ絶対にできない。…その、今回もとても感謝してますから」

「はははっ、そうかよ!」



ボレアスは僕の背中を勢いよくバンバンと叩いた。

そして自身のネクタイをグイっと直す。


「さあ、行くぜ」







「ボレアス・エルピス。ただいま帰還いたしました」

「これはこれはエルビス殿。お勤めご苦労様です。…して、その後ろの少年は?」



門番は僕をジロリと睨みつけた。

…無理も無い。その門番は、先程僕を追い払った人物だからだ。



「彼は私の親友です。先程偶然出会いまして、職場見学をしたいとのことです。どうか一緒に中に入れて貰えないでしょうか。大丈夫、責任をもって彼の出入りを見届けますから」

「…エルビス殿がそう言うのならば」

「ええ、ありがとうございます。感謝いたします」



ボレアスは僕に視線を送って来た。

その目は「来い」と言っているように見える。

僕は門番と視線が合わないように、静かにその横を通り抜けた。


「ちっ」


…その時、頭上から聞こえた舌打ちは聞こえないことにしておこうと思う。








「うわあ、広い。ここが王城」

「ああ、そうさ。俺ら魔法騎士は基本的に王城内で仕事をしている」

「基本的に?というと、それ以外で仕事をすることもあるんですか?」

「ああ、あるさ。例えば魔物討伐とかな。街の外へ行くこともある」

「ま、魔物!?あんなの出会ったら死ぬばっかりだと思ってました」

「ははは。一般市民がそうならないように、俺ら魔法騎士が街を守ってんのさ」





廊下を歩きながら、何気ない会話を交わす。

城内で見るボレアスは、なぜかとても頼りがいのある人物のように見えた。




「さてと。本題だな。クーラは兄ちゃんに会いたいんだっけ。高位治癒師の」

「う、うん。そうです」

「そうか。なら話は早い。きっと王城の中にある、救護室にいるはずだから」

「わ、分かりました」



僕はポケットの中にある黒い種を力強く握りしめた。









「ほらついた。ここだ、ここ」

「あ、ありがとうございます」



しばらく直線的な廊下を進んだ後に辿り着いたのは、1つの質素な扉の前だった。

他の部屋よりも幾分か小さく古い扉で、なんとなく他との「差」を感じてしまう。



「よ、よし」



コンコン。

僕はノックをした。

しかし誰も出てこない。


コンコン。

コンコン。

コンコンコン。


何度ノックしても、兄は返事をしない。

僕とボレアスは思わず顔を見合わせる。


「おっかしーなー。この時間なら、いつも高位治癒師サマはいるはずなんだけど」

「…一体何をしているんだろう」


僕らは頭を悩ませる。

しかしそれと同時に、城内が何やら騒がしさを増していく。


「なんだ?なんかやたらと騒がしいな」

「何かあったのかな」

「…っち、悪い、クーラ。俺は魔法騎士だから行かなきゃならねえわ。もしなんだったら、救護室の中で待っててもいいと思うから!じゃな!」

「えっ、う、嘘だろ」


彼の突然の言葉。

慌てる僕とは裏腹に、ボレアスは颯爽と去って行く。


仕方なく救護室のドアノブを捻ってみれば、それはなんなくカチャッと音を立てて開いた。


「し、失礼します。…って、ええ!?」


部屋の中に入った僕の目に飛び込んできたもの。

僕は思わず息を飲み込んだのだった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る