5.クーラとボレアス
「あ、あのさ。あなたと僕が知り合いってどういうことなんでしょうか」
「おお?何々、やっと俺に興味持ってくれたの?」
「…茶化すよな言い方止めてくださいよ。そりゃあ、誰だって気になるでしょう。いきなり知らない人に知り合いだって言われたら」
「ま、そりゃそうか」
王城へと再度向かう道中で、僕はボレアスを睨みつけながらそう言った。
相変わらずケラケラと笑い、軽快に歩みを進める彼。
本当に彼の心の内が読めない。
「いいぜ、話してやるよ」
「え」
「なんだよ。驚くんじゃないよ。ま、聞いてクーラが俺のことを思い出すかどうかはまた別の話だけどな」
ボレアスはこちらを見て、ニイッと笑って見せた。
そして彼はゆっくりとその唇を動かす。
「今から10年前さ。俺、クーラに助けてもらったことがあんだよ」
「え?」
――10年前。先程彼らが再会した小さな公園にて。
『うわああん!最悪だ!どうして俺は魔法騎士なんかにならなきゃならないんだ!俺はパン屋さんになりたいのに!
俺のパンでみんなに笑顔になってほしいのに!』
5歳の少年、ボレアスは公園の片隅で一人でワンワンと泣いていた。
ボレアス・エルピス。
彼の実家は由緒正しい伯爵家。
そこに生まれた次男以下の男児は、魔法騎士になることが昔から定められていた。
しかし彼の将来の夢は、「パン屋になること」。
幼い彼には「はいそうですか」と簡単に受け入れられなかったのだ。
『俺は自分の未来は自分で決めたい。どうして父上や母上の言うことだけを聞かなきゃいけないの。そんなの勉強だけで十分だよ』
ボレアス少年は、一人で地面にのの字を書いた。
力強く書いているため、ペン替わりにしている小枝は次から次へと折れていく。
彼には、どうしてもそれが歯痒かった。
『ああっ、もう!最悪だ!』
『ひ、ひいっ!』
『ああ?』
『ご、ごめんなさい』
『な、なんでお前が謝るんだよ』
苛立っているボレアス少年の前に表れたのは、1人の青髪の少年だった。
青髪の少年はびくびくと震えながらも、ボレアスに声を掛ける。
『な、なんでそんなに怒ってるの?』
『けっ、怒ってなんかないぜ。でもまあ、俺は自分がなりたいものに慣れないのが腹立つんだ』
『なりたいもの?なあに、それ』
『は?お前、将来の夢とかねえのかよ』
『…将来の夢、なんて知らないよ』
『は?知らないって変なヤツ』
ボレアスは青髪の少年を座った目つきで見つめた。
青髪の彼は、そんな彼を困ったような表情で見つめる。
『…僕、将来は治癒師になるんだ。たぶん。僕はそれしかなれないみたいだから。選べないから、選ばないの』
『は、治癒師?治癒師って奴隷の仕事だって、父上が言ってた』
『それは僕も知ってる。でもそれしかなれないなら、僕は頑張る』
『…へえ』
そう言ってにこやかに笑った青髪の少年。
ボレアスはそれを見て、きまり悪そうに視線を反らす。
『僕は僕にできることをやるよ。それがこの国で生きていくうえで大切だって、よく兄ぃも話してるし。僕は立派な治癒師になるんだ』
『…そうかよ、そうかよ』
ボレアスには、少年の言葉がやけに響くようだった。
彼もまた、青髪の少年に向けてにいっと微笑む。
『なあ、お前名前は?』
『僕?僕はクーラ・ホロス』
『へえっ。俺はボレアス。ボレアス・エルピス!なあ、遊ぼうぜ』
『うっ、うん!』
少年2人は手を握り合った。
「…てなことがあったのよ」
「…ごめん、思い出しそうで覚えてないや」
「えーっ!ここまで説明したってのに!?」
「ご、ごめん」
「まあ仕方ないけどよ」
軽口を言い合う僕たち。
でもまあ、なんだか。
先程よりも心の距離は縮まった、僕はそう思った。
…なんとなくだが。
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