4.希望の光

「ボレアス・エルピス」

「え?」

「ボレアス・エルピスだよ、俺の名前」


青年は、勢いよく僕の隣に腰掛けながらそう言った。

満面の笑みを浮かべながら自己紹介をする彼は、どう見ても敵には見えない。


僕は、黒い種をグッと握りしめながら彼を見つめる。


「別に聞かなくてもいいですけど…。あの。今から喋るのは本当に困っている僕の独り言です」

「はいはい、どーぞ」


僕はぎゅっと唇を噛み締める。

そして唾を飲み込んだ後、ポツポツと話し出した。


「実は僕、王城に会いに行きたい人がいて」

「ほうほう」

「兄、なんですけど」

「へえ」


心臓が鼓動を早める。

ふと横を見てみれば、自分の髪を触りながら相槌を打つボレアスの姿が目に入った。


「…でも僕は兄のように、周りに認められていないから王城に入ることはできない。兄は高位治癒師なんです。だから治癒師一族だとしても、城に入ることができる」

「へえ」

「治癒師なんて、元々はみんな奴隷です。他国から治癒の力に長けた人間が連れて来られたと聞きました。だから治癒師の地位なんてすごく不安定なもので…。

その中で兄は天才だから、王族付き治癒師なんてものになれて…」


だんだんと言いたいことが分からなくなってくる。

でも僕の口は止まらない。


「こんな僕が何を言っても、きっとみんな信じてくれないでしょう。で、でも。僕はどうしても伝えた…いや、伝えなきゃいけないことがあって」

「うんうん」

「…あなたは笑わないんですね」

「は、笑う?何を」

「こんなに言いたいことがまとまらない僕のことを」


僕は、いつの間にか自分から彼に話しかけていた。

先程「独り言だ」と自分で言ったはずなのに。

なんとまあ、僕は僕で自分勝手なのだろう。


「別に笑わねえよ~。誰だって、言いたいことがまとまらない時だってあるっしょ。それに、俺にはあんたの言いたいことが何となく分かったしね」

「そ、そうですか」

「よく知らねえ…と思ってるヤツの方が話しやすいことだってあるだろ。俺はあんたの役に立てたら本望だぜ?クーラ・ホロスくんよ」

「な、なんで僕の名前を!?」

「おいおい、俺、結構伏線張ってたんだけど。…つまり、俺とあんたは知り合いなんだよ。俺からしたら、忘れられていることの方がショックだぜ」


驚く僕とは裏腹に、ボレアスは呆れたように肩を竦めて見せた。


「し、知らない。あなたみたいな陽気な人間」

「おいおい、俺は別に陽気な人間ではないぜ。そう振舞ってるだけでさ」


ボレアスは眉を下げる。

僕の眉もそれにつられるように下がる。


「でもま、あのクーラが知らないと思っている人間に、ここまで自分の気持ちを話せたんだ。きっとよっぽどのことだろ」

「え」

「案内するぜ、王城に。なぜなら、俺の職場だからな」

「え、ええ!?」


そう言って俺の手を引っ張る彼。

僕はただただ、黙って彼の後ろをついていくことしかできなかった。


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