3.拒否と出逢いと

「…はあ、はあ。つ、ついた」


僕は肩で息をしながら、目の前の豪華に装飾された門を見上げた。



ここはぺラゴス王国王城である。

真っ白な外壁に、周囲を囲う金色の門。

主要門であるここには、金色の初代国王の銅像まである。




「兄ぃはここに。ほんと兄ぃはすごいよ。僕、こんな場所で働くなんて考えたこともないよ。ほら、今だって足がガクガク震えてさ。ほ、ほんと情けない」



長距離を走ったせいか、それともこれ以上ない程緊張しているからか。

僕の両足は、自分の意思とは関係なくがたがたと震える。



「止まれ、止まれ」



僕は血まみれの手で、両足をバンバンと叩いた。

しかし何故だろう。

少しも止まる気配は無かったのだ。


「仕方ない。よし、こ、このまま行こう。あー、いー、うー、えー、おー」



僕は震える声を整えるために、わざと大きな声を出した。

ここ最近で一番の大きな声なのではないか。



「あ、あのっ、す、すみません!」

「は、なんだ。このガキ」



僕は門にいる門番に大きな声で声を掛けた。

自分に出る、一番はっきりとした声で話しかけたつもりだ。


しかしそんな僕をよそに、門番は汚いものを見るかのような目でこちらを睨みつけてきた。


「ここはてめえみたいな小汚ねぇガキがくる場所じゃねえんだよ。さっさと帰った帰った」

「い、いや。ですからあの!ひ、人に会いたくて!」

「人に会いたいだあ?んなの無理に決まってんじゃねえか。ここにいる人は、皆さん高貴なお方なんだよ。会えると思うなよ!」

「で、でも!ぼ、僕は!」

「あー、しつけえな!帰った帰った!」


門番は僕を両手で突き飛ばした。

僕はバランスを崩して、その場で座り込んでしまう。


「おいガキ!今度来たら、この剣でぶった切ってやるからな。さっさと去れ!」

「……し、失礼します」


僕は俯いて、その場から去ることしかできなかった。






「あーあ。どうしよう。僕は兄ぃに会うことすらできないんだ」


小さな公園のベンチ。

僕は1人そこに座りながら、あの種を手の中で転がしていた。

こんなに禍々しいものを見つけたのに、それを報告することすらできないとは。

まったく自分の無力さが嫌になる。


「本当にどうしよう。このまま諦められる事案じゃないし…。もし本当に大きな何かがあってからじゃ遅いし…」


黒い種を見つめながら、悶々と考える。


「どうにか方法は…」


指で種を摘み、真っすぐに正面に持ってくる。

するとその時、視界の中に種とは違うものが入った。


「おや?」

「あはは!やっと気付いた!久々だねー!」

「え?あ、あなたは?」

「えっ、俺のこと覚えてないの!?俺だよ、俺!」

「俺だよと言われましても…」


いつの間にか僕の目の前に立っていたのは、金髪ウェーブヘアの青年だった。

ニコニコと人の好さそうな笑みを浮かべ、彼は僕に近付いてくる。


「どうしたの、なんかお困りみたいじゃん?」

「え、えーと」

「あはは、どうやらビンゴみたーい」


ケラケラと笑う青年。

今まで関わったことのないタイプの人間だ、と僕は心の隅っこでそっとそう思う。


「ささっ、俺に言ってみなよ。この俺に!」

「は、はあ」


思わずジトーッとした目で見てしまうが、彼には何も響いていないらしい。

僕は思わず、黒い種と彼を見比べた。


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