第三話 言葉では表現できない感情

「親子と間違われても仕方ないよね。はたから見れば、お母さんと息子だもん」

 姉は顔をわずかに俯ける。

 姉の言葉を聞き、僕の瞳は正面に向く。

 実際、僕は友人から姉を母親だと勘違いされたことがある。そのたびに、彼女は姉であるということを伝えた。

 最初は姉であることを伝えることが面倒だったが、間違われるたびにそうは思わなくなっている自分がいた。

 姉は姉で、僕の知らないところで悩んでいたはずだ。これまでの苦悩がこの日、僕の目の前で言葉になったのかもしれない。

 姉は悪くない。間違ってしまった人も悪くない。

 誰も悪くない。

 言葉では表現できない感情を心に抱きながら姉と歩幅を合わせていると、女性のやさしい声が聞こえてきた。

「洋服、見に行こうか」

 右を向くと、笑顔を見せる姉の姿があった。姉の笑顔からは、苦悩などを感じさせない。

 純粋な笑顔だった。

 僕は頬を緩ませ「うん」とこたえ、お洒落なデザインの看板が特徴のアパレルショップに足を踏み入れた。

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二十歳差のお姉ちゃん Wildvogel @aim3

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