第二話 「お母さん?」

 自宅を出発してからおよそ二十分後、僕たちは大型ショッピングモールの敷地内に足を踏み入れる。

 二つの自動ドアをくぐり、エスカレーターを目指す。

 姉に続いてエスカレーターのステップに両足を乗せると、僕の体は二階へと運ばれていく。

 二階に到着すると、姉の左隣で通路を歩んでいく。

 親子、恋人……多くの買い物客とすれ違う。

 彼らに僕たちの姿はどのように見えたのだろうかと考えを駆け巡らせているうちに、目的地であるシューズショップに到着した。

「俊哉の靴のサイズは、二十四だっけ?」

「うん」

 僕たちは豊富な種類のメンズシューズを左から右に眺め、品定めをする。

 しばらくして、僕のお気に入りのデザインのシューズが見つかり、商品が詰められた箱をレジへ持参する。

「ありがとうございました」

 お会計を担当してくれたショートカットが特徴の女性従業員のやさしい声を聞きながら、姉のすぐ後ろを歩み始めようとした。

 その時――。

「ねえ……」

 女性の囁くような声が、僕を立ち止まらせる。振り向くと、姉の後ろ姿に視線を注ぐ女性従業員の姿があった。

「あの人、お母さん?」

 僕は姉の後ろ姿に視線を注ぐと、首をゆっくりと横に振る。

「いえ。僕の姉です。僕は十五歳で、姉は三十五歳です」

 右後方からは、女性従業員の「お姉さんなんだ……」という驚きの低い声が聞こえる。

 僕は女性従業員と視線を交わすと、笑顔を見せる。

「ごめんね、失礼なこと聞いちゃって」

「いえ。それじゃ、ありがとうございました」

 僕は女性従業員に頭を下げ、姉の元に急ぐ。

 姉の左隣に並ぶと、このような言葉が聞こえてきた。

「ごめんね……」

 右に視線を注ぐとそこには、申し訳なさそうな表情を作る姉の横顔があった。

 姉の低い声に、僕は明るく振舞う。

「誰も悪くないよ」

 僕がこうこたえると、男性従業員の「ありがとうございました」という明るい声が聞こえてきた。

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