二十歳差のお姉ちゃん

Wildvogel

第一話 十五歳と三十五歳

俊哉としや、行くよ」

「今行く」

 九月の土曜日、午前九時二分、姉の言葉にこたえた僕は寝室のドアを開け、階段を下っていく。廊下のフローリングを踏みしめると、僕の目の前にショートカットの女性の姿が見える。

 彼女は、僕の姉だ。

 僕はこの時、十五歳。姉は三十五歳。

 親子のように思えるが、僕たちはれっきとしたきょうだいだ。

 僕と姉はとても仲が良く、頻繁に外出をともにしている。

 外出するたびに、親子と間違えられる。その回数は、数えきれない。


 僕は玄関で靴を履くと、姉に続いて玄関のドアをくぐり、外の空気を浴びる。

 姉が玄関のドアを閉めると、僕たちは足並みを揃え、大型ショッピングモールに向けて歩きだす。

 歩道の人通りは少なく、閑散とした雰囲気が流れていた。

 横断歩道の信号機が見えてきたころ、姉が閑散とした空気を打ち破る。

「学校は楽しい?」

 やさしい姉の眼差しが、僕に注がれる。

 彼女のどこか安心感を与えるような眼差しは、僕が幼いころと何一つ変わっていない。

「うん。楽しいよ」

 僕が笑顔でこたえると姉は頬を緩め、小さく頷く。

 姉が僕の頭に左掌をやさしく置いてすぐ、横断歩道の信号機が青に切り替わる。

 姉は左掌をゆっくりと僕の頭からはなすと、右足から踏み込む。

 僕は姉の左斜め後ろを歩み、やがて左隣に並び、横断歩道を渡った。

 

 


 


 

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